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愛猫やらお人形やら美柴双子やら…
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■微糖中鴇。自分の行動に戸惑う美柴さん と 楽しんでる中条さん。


トントン。
美柴鴇は 履いたばかりの靴先で軽く地面をノックしてから、そのドアノブに手をかけた。
ガチャリ。
安い賃貸アパートに相応しい金属音で開けたドア。と同時に入り込んでくる風。
背後では「…寒ィな」などと小言を漏らしてる 家主。
玄関に座り、ブーツの紐を手繰り 履き始める中条伸人。

「………………。」
「……寒いっつってんだろ 閉めろよ」
「閉めたら 玄関狭い」
「んじゃあ、お前、先出てろ」
「………………。」
「……おい なんで 更に開けんだよ。いやがらせか」
「別に。」
「…………………。」

中条には据わった目で見上げられたが 無視をして ふい と外へ視線を変えた。
中条は「…お前は子供か」と渋々 寒い風を甘受して、またブーツの紐を手繰り寄せる。

(嫌がらせ…というか……)

事あるごとに 昨晩自分が犯した失態を思い出してしまって気に入らないのだ。だから、これは単なる八つ当たりだ。

………眠っている時、自分はあまり良い夢を見るタイプではない。
過去を何度もリープしたり、見たくないものばかり見る。
そんな嫌な夢から 一気に目が覚めた後、心臓が重くなって 喉の奥が苦しくなる。
自分の、怯えるような乱れた呼吸が響く。
暗い部屋に不安が押し寄せてきて、何でもいいから強く握りしめ 自分の中のバランスを保とうとした。

それが ちょうど昨晩は中条伸人の手だった。

「…………………。」
意外にも その手は自分を振り払ったりはしなかった。
微かに顔を覗いて「…どうした」と小さく問われた。
奇妙な震えで何も答えられない自分を見下ろして、二人の間で妙な沈黙があった。

自分は、一体どんな顔で中条を見上げていたのだろう…。
中条は少しカサカサとした手の平で 前髪を退かすと、額に一度だけキスをした。

…たったそれだけで、震えは引いていった。
ゆっくりと落ち着いた気持ちで見上げると、中条は少し笑って こちらを抱き寄せた。愛撫は、無かった。


「……………。」
そんな妙に穏やかな抱擁を、今日は事あるごとに思い出す。
今だってそうだ。ただ空を見上げただけなのに。

振り返れば、中条はまだ靴紐を結んでいる。
そぅと近寄ってみた。被さる影で自分だと気がつき、中条は顔を上げる。

「?なんだよ」
「……………。」

これは、中条が屈んでいる時しか思いつかない行動だと思う。
昨日と同じことを、今度は自分から……。
意図を察した相手は逃げずに、ただじっとこちらを見上げている。
少しだけその前髪を退かして 唇を寄せた。

静かに離れて ふと目が合う。

「……………。」
「………なんだよ」
「……別に。」
そうとだけ言って、またドアを開ける。
今度は中条を待たずに 外に出た。
「おい」と名前を呼ばれたが、振り返らずにドアを閉めて 会話は遮断した。

『……落ち着いたか…?』

あの抱擁で 中条の暖かい体温にまどろんだ頃、そう囁かれた。
眠さもあって うっかり、コクンと頷いてしまったような気がする。

「……………。」
しかし自分からだと全くもって落ち着かない。逆に妙に居心地が悪い。
「……………。」
怒っているのか 戸惑っているのか、はっきりしない自分自身に眉を寄せた。なんて説明すればいいのか分からない。いやに身体がそわそわする。

「…………ったく…」
そうして遮断されたドアの向こう。
ブーツを履いた中条は 立ち上がり、「何照れてんだか。」と呟いて ドアを開ける。
向こうにいた美柴は 出てきた中条に気がついても振り返らず、足早に先を歩き始める。

その ぎこちなく固まった美柴の背中に、中条は込み上げる笑いを隠さなかった。


■本当は、きっと無表情なんかじゃない。
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「じゃ、当日な」
「了解でっす!遅刻しちゃ駄目っすよトキさん!」
「……お前にだけは言われたくない…」

いつもの満楼軒。
もう何度目かの慣れた打ち合わせ。
終えれば 三人は個々に会計を済ませて それぞれの生活へと戻ってゆく。

「はいよ、まいどあり」

「ごっそさんでしたー」と愛想の良い斉藤の声に応えながら、店主が片付けるのは いつも同じもの。


[コーラとウーロン茶と生中]


美柴鴇がバイトをしているのは 新宿二丁目のバー。
堂々と「ゲイバー」と銘打ってるわけではないが、こうゆう場所にはそうゆう客が多い。

「だから駄目だってば。美柴くんはノンケ君なんだから」
「いや意外にイケると思うんだよね。絶対」
「そう言って何人の男が背負い投げをされたことか…。ねぇ美柴くん?」
「………………。」
こうゆう時は聞こえない振りをしているのが一番だ。
自分自身は元から恋愛や他人に興味が薄いせいか、ここでの仕事に強い嫌悪は持っていない。
時にカウンターで耳にする 男から男への優しい囁きに(…インチキくさい)と呆れることもあるが、当人達がそれでいいならいい。
男とか女とかそんなもの以前の問題なんだろう。
まぁ とにかく、自分に害が無ければどうでもいいし、降りかかってくる"害"も 大方自分で対処できるものだ。

「へぇ そうなんだ。美柴くんって強いんだね」
そう言って 前のスツールに座ったのは、一人の青年。
同じ年頃で 最近よく来る……男娼だ。

「あら、イツキ君がこんな時間に来るなんて珍しい」
「振られた。最悪。こっちが相手してやってたっていうのに」
「へぇ じゃあ今夜は俺と一緒に帰ろうかお姫様?」

いやらしく誘う男を、イツキは鼻で笑った。

「僕が?冗談じゃない。安売りはしない主義なんだよ」

店員は クスリと笑い、男は舌打ちをする。
立場の無くなった男が スツールを蹴飛ばすように帰っていくと、イツキは 「自意識過剰だね」と肩をすくめただけだった。

「ジン一つ。アルコール強めにしてね。振られた夜なんだから」
カウンターに肘を付いて 注文される。言われたとおり、配分はアルコールを多くした。
イツキは差し出したグラスを ぐいと全部飲み干す。
コンッとカウンターにグラスを置くと同時に「ジン!」ともう一杯を要請。

見ていたバーテンや客は 感心していたようだったが、イツキがそんな乱暴な飲み方をするのは初めてで 少し不安に思う。
しかし客が欲しいと言うなら作るしかないだろう。

結局三杯飲み干して、カウンターに突っ伏した。
タクシーでも呼ぼうかと思ったところで ムクリと頭を上げた。
…………ひどい顔をしていた。

「…本当はね、ほっとしてるんだ。だってこの年で不倫なんてリスク大きいじゃん。家庭がある男は金も渋るしね、セックスも言うほど上手じゃなかったし」

イツキがそんな話をするのも、初めてだった。

「良いお金くれるから甘えてやってるだけなのにさ、勝手に本気で泣かれても別れ話なんかされても迷惑。それでもまぁ お世話にはなったわけだし?悲劇の不倫相手ぐらいやってあげるけどね。」

他人に本音は話さない。心は開かない。傷口は見せない。
自分はそれを無表情で隠し、イツキは妖艶さでそれをうやむやにしている。
方法が異なるだけで、自分たちはよく似ていると思う所があった。
イツキにも、以前そう思うと言われた時があったぐらいだ。

「くだらない。発展場でダラダラやってた方がまだマシだよ。感情がくっ付いてくると面倒だし、苛々するばっかりだ」

…あの時「正反対かと思っていたのにね」ととても嬉しそうな笑顔で、そんな話をした…。


「―…そんなに嫌なら止めればいい」
つい、そう言ってしまった。
途端 饒舌だった口元は一文字に結ばれた。冷え切った目がこちらを見ていた。

「そう出来たらそうするよ。でも僕には金がいる」
「稼ぎ方は他にもある」
「でも一番手っ取り早いじゃないか。僕は金になるなら、なんでもする」
「でも気に入らないんだろ」
「じゃあ自分はどうなの。ノンケのくせにこんな所で働いてさ。それだって金になるからでしょ、人のこと言えるの」
「………………」

どうしてだろう。

自分自身を賭ける理由まで同じなのに、でも今、目の前の青年と自分は同じに見えない。
まるで、透明な壁で遮られている様な感覚だった。

「……ジン」
こちらが言い返さないと踏んだイツキは グラスを滑らせて注文をする。
滑ってきたグラスをキャッチして 静かにカクテルだけを作る。
今度は少し、アルコールは少なく入れた。なんとなく…。

「……………」
「……………」

それから、会話は一つも無かった。

「…じゃあね」
酔いが冷めてきたのだろう。スツールを降りたイツキは、神妙な表情で何か言おうとした。しかし結局 その一言で帰って行った。
カウンターに残された空っぽのグラスを、片付ける。

「……………」
謝れば良かった。きっとあれがイツキの本音だったのだ。本当は……辞めたいのだ。
そう思えば思うほど 苛々として、いつもより乱雑な手つきで領収書をレジに突き刺した。


----


高校生にもなって、いじめなんてどうかしてる。
斉藤一雄はそうゆう事を見て見ぬ振りが出来ないタチだ。

机や教科書に暴言を書くとか全員で無視するとか、そんな目に見えるような明らかなイジメじゃない。
「からかってるだけ」「ちょっとした冗談」そんな程度かもしれない。
それでも、毎日のように昼食時に使いっ走りにされている彼を見かけると いい気分じゃない。
掃除の時や自習の時 一人で物思いに耽るような横顔を見ると、とても苦い気持ちだった。

だから、購買で立ち尽くした彼を見つけた時 なんだか嬉しかった。

「何なに?どーかした?」
「……頼まれたの、全部無かった…」
「あー、並んでも買えない時あるもんなぁー…」
「…………………」

どうしよう、と小さく呟く声に 笑った。

「コンビニ行けばいいじゃん!!」
「え、今から…!?」
「うん、大丈夫だって。俺もちょーど欲しいパン無かったし、一緒に行くからさ!ほらほら!行った行った!!」

戸惑う彼の背を押して、学校を飛び出した。
コンビニには目当ての惣菜パンが勢揃いで 「良かった…」と安堵している彼に「だろ!?」と肩を叩くと、軽く笑いあった。
学校に戻ったのは 昼食が終わる時間ギリギリだったが、言われた物をしっかりと抱えて帰ってきた彼を 必要以上に詰る者はいなかった。

それから よく話すようにもなって 一緒に家まで帰ったりもするようになった。
仲良くなれば、確かに少しネガティブで すぐ凹んで なかなか立ち直らない、自分とは正反対な性格だったけれど、それでもイジメにあう理由なんてどこにもないような生徒だった。
使いっ走りに遭うところも見なくなって、きっとこのまま解決するんだろうと思っていた。

でも、環境は そう簡単には変わらない。

『万引きの常習で捕まった。停学処分になる。』
朝礼前の学校は そんな話で持ちきりだった。
愕然として 居ても立ってもいられなかった。

終礼のチャイムと同時に駆け出した。
メールなんかじゃなくて、電話なんかじゃなくて、きちんと面と向かって話したかった。

どうして。

「…わざわざ来なくてもいいのに」
家に居た彼は 憔悴した顔をしていた。自嘲的に笑って 噂話を肯定した。

「…なんで…だって、そんな事言わなかったじゃん!!」
「言うわけ無いだろ 犯罪なんだから」
「やらされてたんだろ!パシリの次は万引き!?そんなの なんで言う事聞くんだよ!?」
「うるせぇーな…!!」
突然、そう突き飛ばされた。驚き固まる斉藤を睨んだまま 同級生は叫ぶ。
眉間に寄った深い皺が、憤りや憎しみの深さを表している。

「お前が手ぇ貸せば貸すだけ 目ぇ付けられるんだよ…!!分かんだろそんぐらい…!!」
衝撃的で 何も言えなかった。

「迷惑なんだよ!!お前のせいだからな!!」

そう言い捨てて閉じこもろうとする彼を 慌てて何とか止めようとした。
振り払われて 勢い良くドアに遮られる。
無理やりドアを押して 入ってしまおうかとも思ったが、「帰れ」と強い声で拒絶された。

「…もう俺に構わないでくれよ 頼むから……」

弱りきった声に、悟った。
今は、自分には何も出来ない…。
悔しさに 泣き出しそうで、叫びだしそうな痛い気持ちを堪えて その場を走り去った。


-------



「俺はアンタと違う。ちゃんとあいつの幸せを考えてるんだ」
「あ、そう。じゃあ お前に返すわ」

それで万々歳だな、そう続けようと思った言葉は 思いっきり殴られて拒まれた。
女の短い悲鳴と じんと熱くなる頬骨。

「痛ってーなぁ 殴ることねぇーだろ。俺は手ぇ引くって言ってんだからよ」
「そんな軽い気持ちで 人の女に手ぇ出してたのかよ!ふざけんな!! お前綾香を何だと思ってんだ…!!」
「何って…」
「いい!言わなくていい どうせ大した事言わないんだろ。さっさと失せろ!!」
「……伸人…」
噛み付く男に反して、女はまだどこか名残惜しむような声だった。
その甘い声にそっと近づいて 頬に手を添え、女に期待を持たせる。
けれど一瞬にして 鼻で笑ってやった。

「気が変わったんなら またヤッてやってもいいぜ?」
「ッ!!」

キレて飛びかかってこようとする男を、女が慌てて引き止める。
傷ついた女が 元彼の腕をしっかりと握って、こちらを睨んでいた。

「最低!そんな男だと思わなかった」
「……お前が俺の何知ってるっつーんだか…」

やれやれ と呆れ半分にそう吐き捨てた。
こうゆう時、必ず口をついて出てくる口癖のような言葉。

「それ以上 綾香に近づいたら殺すぞ!!」
「あーはいはい 分かったよ。じゃーな」

ひらひら と軽く手を振って、背を向けた。
背後では 支えあうように男女が肩を寄せている。

悪い男に引っ掛けられた女と それを救った元彼。二時間ドラマのような展開だった。
……それでも、きっとあの二人は この後 一緒になるだろうと 頭のどこかで思った。
でも、この角を曲がったら こんなドラマはきっと忘れる。

あんなものは、自分には到底縁のないものなのだ。

まだ痛む頬骨。ここまで強く人を殴るなんて、どれだけの想いだったのか。
まったく、そんなに大事な女ならきちんと手綱をつけておけ。

タバコを吹かして、向かった先は満楼軒。

ガラララ。
今にも枠から外れそうな 安っぽい音。
そうだ こうゆう音のほうがよっぽど自分には向いてる。
無駄に疲労した心でそう思いながら 顔を上げた。

「…あ。中条さんだー」
「………………」
「………何してんだお前ら」

奥のテーブル席に美柴。
手前のテーブル席で 美柴と背中合わせに斉藤。

「二日連チャンで顔見るとはな。しかも同じ店で」
「気が合っちゃって 大変ですよねー俺ら」
「……合ってない。」

二人とも、いつもより憂鬱な表情。
ため息を吐いて カウンターに座った。
後ろの二人も 気が付けばため息を吐く。

「……………」
「……………」
「……………」

それぞれが それぞれの考え事に堕ちていってしまう。
厨房から出てきた店主が そんな三人の前に一つづつ グラスを置いた。

「コーラ、ウーロン茶、生中」
それは、いつも三人が頼むもの。
はて と顔を上げた三人を見て、店主は肩をすくめて見せる。

「他にご注文は?」
「「「キムチラーメン一つ」」」

見事に揃った声に、三人は至極罰が悪そうに顔を見合わせる。

「はいよ」
店主は首にかけていたタオルを頭に巻き、呆れ顔で笑った。


■それぞれの生活。だけど微妙にリンクし合う生活。
■以下、ありこ様50000打リクエスト「甘め中鴇」です。
BUMP OF CHICKENのダイアモンドのCP曲「ラフメーカー」を題材に致しました…!!
「オーバー20」はもうしばらくお待ち下さいませッ

リクエスト、順序が前後してしまい大変申し訳ありません…ッ(深礼)

「意地悪な中鴇」は何というか……もっと…あの、セクシー?(笑)な意地悪がいいな、って思ってます。
……いや、だって、中条さんドSだし…!!笑"

頑張ります…!!m(__)m

■天体観測な斉籐&美柴


辿り着いたのは 都会のどこにでもありそうな、細長いビル。
そんなに高いビルではない。何の事務所が入っているのか、あからさまに不審な佇まいだった。
外装を見上げて 訝しがる美柴をよそに、斉藤が トキさん早く早く と小声で呼ぶ。
何をするのかと見れば 斉藤は裏口をこっそりと開けて、コソドロのような腰の低さで忍び足をし 中を伺っていた。
持ってきた懐中電灯で 周囲を照らし、首を伸ばして そわそわしている。

(……バカがいる…。)
その忍び込む顔がいやに真剣で緊張した面持ちだっただけに、本人にはそう言うことは出来なかった。

「………………。」
見るからにビルには誰も残ってはいなそうで、美柴は そんな斉藤の動きは無視して 特に気も遣わずに中に入った。

―…ガシャン!!

後ろ手でドアを閉めると、しんと静まり返った屋内で思ったよりも大きな音が響いてしまった。
その時、人一倍飛び上がったのが 目の前の斉藤の背中だった。
そんなに飛び上がって驚かれるとは思わず、美柴は若干 斉藤に驚いた。

「ちょ…!!トキさん静かに…!!!」
慌てて振り返った斉藤は 大げさな仕草で 「しぃ―…!!」と人差し指を口に当てる。

「…………。」
美柴は ふいと顔を反らし、斉藤の注意をわざと無視する。
聞き入れる様子のない美柴に、斉藤は 「もっと緊張感を持って…!」などと言いつけて、気を取り直すように小さく気合を入れた。

そろりそろり 忍び足で先頭を進む斉藤。
その後ろで 適当に天井や壁を照らしつつ ついて行く美柴。
二人はぐるぐると非常階段を登って おそらく誰も開け放たないであろうドアを潜った。

その先の屋上にも人は居らず、ようやく斉藤が忍び足を止めた。

「おぉー!着いたぁ!!」
まるでミッションでもクリアしたかのような満足気な笑顔で両腕を伸ばし、夜空を仰いだ。
続いた美柴も 視線を空へと向ける。澄んだ夜空だった。星も少し見えそうだ。

満更でもなさそうな美柴の横顔。斉藤は笑って 軽く駆け出す。
真ん中辺りで 360度の夜空を見渡してから、「よし、ここにしよ!」と座った。
意図を察しながら 傍に寄った美柴は、それでも素直には座らなかった。

「…………寒い。」

不思議そうに見上げていた斉藤は 美柴の言葉で ぱっと何かを思いついて立ち上がった。
羽織っていたアウターをせかせか脱ぐと、コンクリートに敷いた。
ぽんぽん と整えると 妙にキラキラした目で美柴を改めて振り返る。

「ここにどうぞ!!」
まるでここは特等席だとでも言うように差し出された。
美柴は呆れたように、諦めたように 息を吐く。

その美柴のリアクションに(帰ってしまうだろうか)と 叱られた大きな犬がしょぼんと小さくなりそうになる。けれど、

「………我慢する…」

美柴は 置かれたアウターを拾い上げると パンッと汚れを振り落とした。
斉藤に押し返し、敷物のなくなったコンクリートに座った。

「………。」
渡されたアウターと座った美柴を交互に見て、斉藤は 嬉しさに微笑む。
座らないのかと見上げた美柴に そのニヤケ顔が見つかって睨まれた。

「着ないなら返せ」
「いや!着ます着ます!!てか俺のです!!」

二人で並んで座り、しかし奇妙な沈黙が流れた。

「…………で?」
「はい?」
「何するんだこんな所で」
「~な!!何って…!!?何もしませんよヤダな鴇さんったら…!!」
「………そうゆう意味では言ってない…」
「!わ、分かってますよ!冗談です冗談!!」

勘違いで墓穴を掘って 慌てる斉藤は放っておくことにする。
はぁ と手を温めて 空を見上げる。

「えー…と、トキさんは何座ですか?」
「……なんで」
「いや!…俺、小学校で"天体観測"ってのやって、そこで天体とか星座とか勉強したんです。それで、今も少し覚えてるものとかあって」
「………へぇ」

確か自分も課外授業で学習したが、内容は何も覚えてはいない。
良く覚えているなと 美柴は感心した頷きを返した。
生返事ではないと理解した斉藤は 急激に元気を取り戻し 話し始める。

何億光年の歴史。
赤、黄色、青、そんな星や惑星の光の違い。
人がどうして 星座を生み出したのか。何を祈って 崇めていたのか。
遠い遠い昔の人々が 宇宙に見出した願いや希望。

「ってことは!この宇宙のどこかで、もしかしたらダブルオーが戦ってるんですよ…!!」
「…………………………………」

まぁ後半から、何の話か全くついていけなかったわけだが。

「ロマンが溢れてるんです!!宇宙には!!」
そう力込めて言い終わると 小さく息切れを起こしているように見えた。

「……そんなに好きなのか?」
「え!?あ、いやまぁ、ガンダムとかそうゆうのの影響なんですけどね。でも、好きですよ。星がいっぱいあるのって、単純に綺麗だなって思うし」
「……宇宙飛行士にでもなったらどうだ」
「いやいや!俺には無理っすよ!!」
「だろうな」
「えぇえ!?何それ!!ヒド…!!」
「本気で言うわけない。」
「……うわ~鴇さん、そうゆう事言ったりするんだぁ、なんかショック~。ドSキャラは中条さんだけかと思ってたのに~」
「中条さんと一緒にするな」

美柴の頑ななな反論に笑って、星空を見上げる。

「あ、そうだそうだ!で、トキさんは何月生まれなんですか?」
「……2月」
「2月の?」
「……………」
「…2月の~?」
「……14日」
「マジで!!?すげー!バレンタイン!? うっわやっぱそうゆう人はそうゆう日に生まれるんだ!すげ―!」
「うるさい。」

美柴の一言と一瞥で叱られても、斉藤はめげずにニシシと笑う。

「あ、俺、7月18日なんです。生まれ星座、どっちも見れませんね」
「……別に見たいわけじゃない」
「中条さんが居たら見れたかなー?…秋生まれって感じじゃないけど。トキさん何月だと思います?中条さんの誕生日」
「興味ない」
「えー。ん~…夏っぽいけど、意外に春とか?」
「……………夏」
「知ってんですかトキさん!?」
「知らない。」
「??じゃあ なんで?」

「破廉恥だから。」

「・・・・・・・・。」
無表情に言い放った美柴の返答に、一瞬ポカンとした斉藤は しかし一気に笑いを吹き出した。
忍び込んだことも忘れて 「確かに!!」と大きな声で賛同する。
美柴は何故か嬉しそうな斉藤を 不思議そうに見ていた。
目が合って、斉藤は ニカッとはにかんだ。

「俺、また一つ、トキさんの事知りました」
「…………………。」

言葉もリアクションも返せない美柴に もう一度笑った斉藤は夜空を見上げて 寝転がる。
その視線を追って、美柴も空を仰ぐ。

「あ!流れ星!!」

早く願い事を…!!と焦る斉藤の気配をすぐ隣に感じつつ、美柴は ふぅと空に向かって溜息を吐いた。
その口元が ほんの少しだけ笑っていて、それを盗み見た斉藤も 真似するようにわざと溜息を吐いた。

「あ~あ、願い事、間に合わなかったなぁ」

残念そうにそう言うと、美柴は空を見上げたまま 応えた。

「なら また見に来れば良い…」

斉藤はうるうると感極まった目で 美柴の背を見た。

あぁ神様、ありがとう。
嘘をついて ごめんなさい。

「二人で。」

どうやら間に合ってたみたいです。

■次男と末っ子の物語は可愛い路線を目指したい。笑

■怪我した美柴さん と 怒ってる中条さん。



AAAの勝利が確定し 斉藤が盛大な一息をつく。
そんな様子に軽く笑って中条が煙草を取り出す。
二人を横目に、美柴は手にした敵のディスクを 何となしに手の中で転がした。

小さな物音に振り返った。
暗闇から音もなく降りかかるナイフ。
綺麗に化粧された女の瞳。
恐ろしいほど冷静な怨みをしたためた瞳孔。

「―……死ね。」

女が発したとは思えない、低く 黒い、殺意の呟き。


「――鴇さん…ッ!!!」


……身体が凍り付いて、うまく動かなかった。


【19歳の謝罪模様】


思ったよりも深かった刺し傷。
骨に響くような痛みと熱を感じる腕に、中条がタオルを押し付ける。
美柴が声を耐えるように俯いても、中条は手当てを中断しない。
斉藤は薬局へ走り出され、中条宅へは二人きり。気まずい。

「……痛い」
「そらそーだろーよ」
「………。」
怒っているような中条の声色に、美柴は押し黙るしかない。

女だから、と そんな油断をしている気は毛頭無かった。
でも、自分が気絶させた女へ施した拘束は 実際甘かったのだ。
おかげで ゲームが終わってからこんな怪我をした。自業自得。
なのに 中条も斉藤も心配して(中条はどちらかと言えば呆れ半分だろうが) こんな応急手当をしている。

「あとは斉藤待ちだな」
消毒を終え、斉藤が買ってくるはずの包帯を待つ。
その間の臨時として 中条は薄いガーゼを巻こうとする。

「…自分でやる」
「利き腕じゃねーだろ」
「これぐらいできる」
「だったら 先に言う事があんだろ」
「………………。」

『女だからって 遠慮したりすんなよ』
ゲーム開始直後には 相手が女三人で構成されたチームだと把握できた。
気が乗らないと言った斉藤に 中条はそう言った。
そしてあまり気にしていなかった自分にも まるで念を押すように、同じ言葉で忠告した。

『女の目は見るとロクな事がない。さっさと片付けろ』

その通りだった。
…………気絶する瞬間は とても切なそうな表情で倒れていったのに、目を覚ました時には あんな冷酷な目を見せるなんて。
囁くような殺意の声は、男が襲い掛かってくる時に叫ぶ怒号よりも 何倍も恐ろしかった。背筋が凍った。

中条の忠告を真摯に受け止めなかった。
その代償は 大きかった。
……非は…自分にある。

「……タオル、汚して悪い」
「俺が言ってるのはそうゆう事じゃねぇー」
「……洗濯して返す」
「いい加減殴るぞ」
「…………。」
「…………。」

じぃっと怒ってる目が見下ろしてくる。
いつもは前髪で見えないくせに、こうゆう時だけはよく分かるのだ。
美柴も負けずと無表情に見上げてはいても、本音を言えば 怒っている中条に沈黙されるのは とても気まずい。

………非は認める…ことにした。


「…………少し、失敗した…」


美柴は中条から顔を反らして、そう言った。
中条は しばらくその言葉にぽかんとし 美柴を見る。
素知らぬ顔をした美柴は やはりこちらを見ない。

それが謝罪の言葉。自分の非を認めた言葉だとやっと理解できて 思わず呆れ笑い、ため息を吐いた。

「…次は気ィつけろよ」

相変わらずそっぽを向いて。だけど 美柴は小さく頷いた。
認めたわりには拗ねているのか、素直に申し訳ないと思っているのか、微妙な表情に見えた。
その反応に肩をすくめ、中条はコーヒーを沸かす。

「ひとつ気がついたんだけどな」
「……何。」

美柴は怪訝そうにキッチンの中条を見る。
振り返った中条は、疲れたように笑った。

「斉藤よかお前の方がよっぽど大変だ」

(大人なんだか、子供なんだか)


■元ネタ 『amato amaro(basso著)』
この話を中条と美柴版にしたかった…!!
女性相手なら素直に謝れるのに、中条さん相手だと素直に謝れない美柴さん。に萌えるのだよ私は!笑←

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