愛猫やらお人形やら美柴双子やら…
レッツ双子の「なぜなぜ病」☆笑
―――………
「なんで僕達は双子で生まれたの?」
夕食の準備をしていた母は 突然そう尋ねたシギに少し驚いていた。
シギは気にせず、首を傾げる。
「なんで?」
「ん―…なんでかな。選ばれたのかしらね」
「誰に?」
「神様。きっと、お母さんとお父さんに幸せを与えてくれたの」
「…かみさまって、何処にいるの?」
「ん~、と…あ、二人とも、毎朝道場の神棚にお辞儀するでしょう?あそこかなぁ」
「あんな小っちゃい所にいるの?見える?」
母は、穏やかに微笑んだ。
『見えないけど、いるのよ』
シギはさらに首を傾げて、トキを振り向いた。
「トキは見たことある?」と聞けば、首を横に振るだけ。
「トキは、不思議じゃないの?」
「……なにが?」
「僕達が双子のりゆう」
理由。最近覚えた 少し難しい言葉をシギはとかく使った。
そうして何かを知っていくほどに、疑問は次から次へと生まれていく。
「トキは知ってる?」
「…なにを?」
「だから!僕達が双子で生まれてきたりゆう!」
「……しらない」
「しりたいでしょ?かみさまは、どうしたら見れるのかとか!なんで雨が降るのかとか!いっぱい知りたい事あるでしょ?」
「………………」
「トキ!」
聞いてるのか聞いてないのか、反応の薄いトキに対し シギがふくれ面に変わる。
母は困ったように笑いながら、ご機嫌ななめなシギの髪を撫でた。
「いい子にしてたら、きっと神様だって見えるでしょうね。サンタさんだって、いい子の所には来てくれるんだから」
だからいい子に 向こうで遊んでいなさいね、と窘められる。
まだ聞きたい事がたくさんあるのに。
母への不満を同意して欲しくて片割れを見れば、全くもって興味が無さそうな表情。
思い返せば、トキはそんな疑問をあまり口にしない。
自分と同じように学習し、同じように"不思議"と出会っているはずなのに、トキは母や父に質問しないのだ。
そんなトキを見ると、何だかトキは知っているのに、自分だけが知らないような気がして 少し面白くない。
シギは 頬を膨らませて母を見上げ、ふいと顔を背けると台所をあとにした。
「トキ、何してるの?」
夕暮れの日差し。夕食に呼ばれるまでの待ち遠しい時間。
縁側で一緒に塗り絵をしていたはずが、気がつくとトキは空を見ていた。
クレヨンも閉じられていて、塗り絵もそれで完成しているのだろう。でもシギから見れば、もっともっと色を入れたいぐらいだ。
「何見てるの?」
「………雲。」
「?……雲。」
それがどうしたのかと オウム返しをする。
トキは うん、と空を見上げたまま頷くだけ。
「雲、赤いね」
シギもクレヨンを置き、隣に座る。 指の先に赤いクレヨンが付いていて、雲と同じだと トキに見せる。
しかしトキは ちらりと見ただけで やはり空を向く。
「空にいるのかも」
唐突な兄の呟きに、シギはポカンとその横顔に見入る。
「…なにが?」
「……かみさま。さっき、見えないけどいるんだって母さんが言ってた」
「…あ。さっきの?」
確かに、そんな事を言ってたかもしれない。
遊びに夢中で 先程の母とのやりとりなどすっかり忘れていた。
「空 あんなに広いし、あそこに居たら、見えない。でもどこからでも見える」
この兄はあの話を今まで考えていたのだろうか。黙ったまま、一人で。
「いるけど、見えない。見えないけど、いる。おんなじだ。」
なんだか良く分からない。でもトキがそう言うなら きっとそうなんだと、特に反論は無い。
「もしかしてトキ、さっきからずっとそれ考えてたの?」
「…うん」
「空がかみさまなのかな?」
「…分かんないけど」
相変わらずな片割れだと その横顔に思わず笑った。
知らない事を尋ねないのは、自分で答えを探すから。そうやって一人で考えられるだけ考える。
しかしたまにトキの答えは複雑で不思議な時もある。
だけど何故かシギも納得してしまう。これも不思議だ。
「トキ、知ってる?そうゆうの、変わり者って言うんだよ」
「…じゃあ、シギだってそうだ」
「ううん、僕は違うもん。トキが変わり者なんだよ」
不服そうなトキを尻目に、もう一度 一番の疑問を口にする。
「じゃあ、二人で生まれてきたのも、空が決めたのかな?」
トキは 少し眉を寄せ、考えている。
母が夕食だと自分達の名を呼んだ。
二人で返事をして 立ち上がる。どちらともなく手を取り合って、夕食の香りに誘われ走り出した。
今度はいつ答えを見つけるんだろう。
いつ自分だけにこうして話してくれるんだろう。
シギは心待ちにしている。
トキの"不思議"に出会う日を。
―――………
以下 アトガキ。
―――………
「なんで僕達は双子で生まれたの?」
夕食の準備をしていた母は 突然そう尋ねたシギに少し驚いていた。
シギは気にせず、首を傾げる。
「なんで?」
「ん―…なんでかな。選ばれたのかしらね」
「誰に?」
「神様。きっと、お母さんとお父さんに幸せを与えてくれたの」
「…かみさまって、何処にいるの?」
「ん~、と…あ、二人とも、毎朝道場の神棚にお辞儀するでしょう?あそこかなぁ」
「あんな小っちゃい所にいるの?見える?」
母は、穏やかに微笑んだ。
『見えないけど、いるのよ』
シギはさらに首を傾げて、トキを振り向いた。
「トキは見たことある?」と聞けば、首を横に振るだけ。
「トキは、不思議じゃないの?」
「……なにが?」
「僕達が双子のりゆう」
理由。最近覚えた 少し難しい言葉をシギはとかく使った。
そうして何かを知っていくほどに、疑問は次から次へと生まれていく。
「トキは知ってる?」
「…なにを?」
「だから!僕達が双子で生まれてきたりゆう!」
「……しらない」
「しりたいでしょ?かみさまは、どうしたら見れるのかとか!なんで雨が降るのかとか!いっぱい知りたい事あるでしょ?」
「………………」
「トキ!」
聞いてるのか聞いてないのか、反応の薄いトキに対し シギがふくれ面に変わる。
母は困ったように笑いながら、ご機嫌ななめなシギの髪を撫でた。
「いい子にしてたら、きっと神様だって見えるでしょうね。サンタさんだって、いい子の所には来てくれるんだから」
だからいい子に 向こうで遊んでいなさいね、と窘められる。
まだ聞きたい事がたくさんあるのに。
母への不満を同意して欲しくて片割れを見れば、全くもって興味が無さそうな表情。
思い返せば、トキはそんな疑問をあまり口にしない。
自分と同じように学習し、同じように"不思議"と出会っているはずなのに、トキは母や父に質問しないのだ。
そんなトキを見ると、何だかトキは知っているのに、自分だけが知らないような気がして 少し面白くない。
シギは 頬を膨らませて母を見上げ、ふいと顔を背けると台所をあとにした。
「トキ、何してるの?」
夕暮れの日差し。夕食に呼ばれるまでの待ち遠しい時間。
縁側で一緒に塗り絵をしていたはずが、気がつくとトキは空を見ていた。
クレヨンも閉じられていて、塗り絵もそれで完成しているのだろう。でもシギから見れば、もっともっと色を入れたいぐらいだ。
「何見てるの?」
「………雲。」
「?……雲。」
それがどうしたのかと オウム返しをする。
トキは うん、と空を見上げたまま頷くだけ。
「雲、赤いね」
シギもクレヨンを置き、隣に座る。 指の先に赤いクレヨンが付いていて、雲と同じだと トキに見せる。
しかしトキは ちらりと見ただけで やはり空を向く。
「空にいるのかも」
唐突な兄の呟きに、シギはポカンとその横顔に見入る。
「…なにが?」
「……かみさま。さっき、見えないけどいるんだって母さんが言ってた」
「…あ。さっきの?」
確かに、そんな事を言ってたかもしれない。
遊びに夢中で 先程の母とのやりとりなどすっかり忘れていた。
「空 あんなに広いし、あそこに居たら、見えない。でもどこからでも見える」
この兄はあの話を今まで考えていたのだろうか。黙ったまま、一人で。
「いるけど、見えない。見えないけど、いる。おんなじだ。」
なんだか良く分からない。でもトキがそう言うなら きっとそうなんだと、特に反論は無い。
「もしかしてトキ、さっきからずっとそれ考えてたの?」
「…うん」
「空がかみさまなのかな?」
「…分かんないけど」
相変わらずな片割れだと その横顔に思わず笑った。
知らない事を尋ねないのは、自分で答えを探すから。そうやって一人で考えられるだけ考える。
しかしたまにトキの答えは複雑で不思議な時もある。
だけど何故かシギも納得してしまう。これも不思議だ。
「トキ、知ってる?そうゆうの、変わり者って言うんだよ」
「…じゃあ、シギだってそうだ」
「ううん、僕は違うもん。トキが変わり者なんだよ」
不服そうなトキを尻目に、もう一度 一番の疑問を口にする。
「じゃあ、二人で生まれてきたのも、空が決めたのかな?」
トキは 少し眉を寄せ、考えている。
母が夕食だと自分達の名を呼んだ。
二人で返事をして 立ち上がる。どちらともなく手を取り合って、夕食の香りに誘われ走り出した。
今度はいつ答えを見つけるんだろう。
いつ自分だけにこうして話してくれるんだろう。
シギは心待ちにしている。
トキの"不思議"に出会う日を。
―――………
以下 アトガキ。
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小話です。
――――――
その夜は稀に見ない大荒れのバッドディ、バケツをひっくり返したような豪雨だった。
ほとんどの店が看板をしまい込み、寂れた田舎の町中。
いつも以上に全く客が集まらないクラブ。
狭いステージで、冷めた気分のまま準備だけを進めるバンド。
「ねぇ 歌っても、いいかな…?」
いつの間にかフロアに佇んでいたのは、一人の少年だった。
【太陽と月】
あの日、客もいないからと歌わせた千鶴の歌声に 俺達はド肝を抜かれた。
今日は店を閉めると言いに来たマスターが、驚くほど間抜けな顔で 目と口をばっくり開けて 千鶴を見ていたのは、今でも最高の笑いネタだ。
それほどに千鶴の歌声は輝いていて、人間の芯に響くものだった。
ある人は『天使の歌声』
ある人は『選ばれた歌い手』
とにかく、千鶴には多くのフレーズがついた。
俺もこれまで何人かのバンマスに出会って来たけれど、千鶴ほどの奴には会った事がなかった。
まさに伝説のヴォーカリスト。
千鶴を中心に集まった俺達のバンドは いつしか都会にも知れ渡り、ついにお声が掛かった。
「なぁ…本当に来ないのか?」
だけど千鶴は何故か、行かないの一点張りだった。
千鶴が行かないなら俺も行かない と何度も説得と主張を繰り返したが、千鶴は「そんなのはダメだ」と悲しそうに笑うだけだった。
「……何でだ?いい加減 理由くらい教えてくれたっていいじゃねぇか。俺達、仲間だろ?」
送迎のワンボックスカーから、最後まで教えてもらえなかった質問を投げかける。
千鶴は、俺をじっと見つめた後 諦めたように息を吐いて、答えた。
「……僕はもう、何処にも行けない。帰れる場所もないんだ…」
今まで聞いた事のない沈んだ声と まるで闇夜のような深く暗い瞳。
「……え?」
言葉の意味を問う前に、突然両腕を広げた千鶴は 今度はいつものように華やかに笑った。
「僕は此処で待ってるよ!有名になったらさ、チケットはタダにしてくれるんだよね?」
「…バ―カ ついてこなかった罰として割増しで売りつけてやるぜ」
慌てて調子を合わせて くだらない冗談を口にした。
千鶴は満足気に頷き、頑張れ と手を差し出してくる。強く握手を交わした。
発進する車で、手は離れていく…。
指が解ける瞬間、千鶴のぬくもりが崩れたような気がして 不安になった。
けれど窓から顔を覗かせると、千鶴は優しく 手を振っている。
「絶対、有名になるからな!!」
そう叫べば、変わらない笑顔が返ってきた。
やはり千鶴の笑顔は 夜のステージでも揺るがない太陽だ。
その姿に、俺は夢の実現を心から誓った。
バンドを乗せたワンボックスカーが、角を曲がり 見えなくなった。
千鶴はその姿を見送り クラブを振り返る。
「……気が済んだか?」
扉に背を預けていたマスターが、体を起こしてそう言う。
「……うん…。、これで良いんだ…」
千鶴は穏やかに笑う。
マスターが開ける扉を潜り 薄暗いクラブの中へ歩む。
「……マスター、本当に感謝するよ…。本当に、ありがとう」
「……お前みたいな連中にそう言われるのは 初めてだよ」
千鶴は目を閉じ、深呼吸をする。天井を仰ぎ 来るべき”何か”を待つ。
「……何か伝言はあるか」
ロザリオを掲げるマスターに、千鶴はもう一度 静かで穏やかな笑顔を見せた。
「僕を忘れないで……。そう、伝えて…」
その瞳が潤んでいる。
マスターは強く、千鶴を見つめて頷いた。胸で十字を切り、チェーンを揺らせば ロザリオから暖かい光が零れる。
フロアはまばゆい光で溢れ、マスターは片手をかざしてその眩しさに目を細めた。
光は一層強くなったかと思うと、何処かに吸い込まれるように消えていった。
光を失ったフロアに、千鶴はいない。
千鶴がいた場所には バイクのキーが落ちていた。
……稀に見ない豪雨の日、隣町のクラブへ向かおうとした少年が、バイク事故で亡くなったのは 少し前の話。
その少年の夢は『人々の心に残る歌い手になること』だった。
だけどもう一つ生まれた夢は、誰も知らない マスターと千鶴だけの暖かい秘密。
『どうか、君の夢は叶いますように』
「…大丈夫。もう充分、伝わってるさ」
キーを拾い上げたマスターは、月にそう囁く。
―――END
以下 後書き。
――――――
その夜は稀に見ない大荒れのバッドディ、バケツをひっくり返したような豪雨だった。
ほとんどの店が看板をしまい込み、寂れた田舎の町中。
いつも以上に全く客が集まらないクラブ。
狭いステージで、冷めた気分のまま準備だけを進めるバンド。
「ねぇ 歌っても、いいかな…?」
いつの間にかフロアに佇んでいたのは、一人の少年だった。
【太陽と月】
あの日、客もいないからと歌わせた千鶴の歌声に 俺達はド肝を抜かれた。
今日は店を閉めると言いに来たマスターが、驚くほど間抜けな顔で 目と口をばっくり開けて 千鶴を見ていたのは、今でも最高の笑いネタだ。
それほどに千鶴の歌声は輝いていて、人間の芯に響くものだった。
ある人は『天使の歌声』
ある人は『選ばれた歌い手』
とにかく、千鶴には多くのフレーズがついた。
俺もこれまで何人かのバンマスに出会って来たけれど、千鶴ほどの奴には会った事がなかった。
まさに伝説のヴォーカリスト。
千鶴を中心に集まった俺達のバンドは いつしか都会にも知れ渡り、ついにお声が掛かった。
「なぁ…本当に来ないのか?」
だけど千鶴は何故か、行かないの一点張りだった。
千鶴が行かないなら俺も行かない と何度も説得と主張を繰り返したが、千鶴は「そんなのはダメだ」と悲しそうに笑うだけだった。
「……何でだ?いい加減 理由くらい教えてくれたっていいじゃねぇか。俺達、仲間だろ?」
送迎のワンボックスカーから、最後まで教えてもらえなかった質問を投げかける。
千鶴は、俺をじっと見つめた後 諦めたように息を吐いて、答えた。
「……僕はもう、何処にも行けない。帰れる場所もないんだ…」
今まで聞いた事のない沈んだ声と まるで闇夜のような深く暗い瞳。
「……え?」
言葉の意味を問う前に、突然両腕を広げた千鶴は 今度はいつものように華やかに笑った。
「僕は此処で待ってるよ!有名になったらさ、チケットはタダにしてくれるんだよね?」
「…バ―カ ついてこなかった罰として割増しで売りつけてやるぜ」
慌てて調子を合わせて くだらない冗談を口にした。
千鶴は満足気に頷き、頑張れ と手を差し出してくる。強く握手を交わした。
発進する車で、手は離れていく…。
指が解ける瞬間、千鶴のぬくもりが崩れたような気がして 不安になった。
けれど窓から顔を覗かせると、千鶴は優しく 手を振っている。
「絶対、有名になるからな!!」
そう叫べば、変わらない笑顔が返ってきた。
やはり千鶴の笑顔は 夜のステージでも揺るがない太陽だ。
その姿に、俺は夢の実現を心から誓った。
バンドを乗せたワンボックスカーが、角を曲がり 見えなくなった。
千鶴はその姿を見送り クラブを振り返る。
「……気が済んだか?」
扉に背を預けていたマスターが、体を起こしてそう言う。
「……うん…。、これで良いんだ…」
千鶴は穏やかに笑う。
マスターが開ける扉を潜り 薄暗いクラブの中へ歩む。
「……マスター、本当に感謝するよ…。本当に、ありがとう」
「……お前みたいな連中にそう言われるのは 初めてだよ」
千鶴は目を閉じ、深呼吸をする。天井を仰ぎ 来るべき”何か”を待つ。
「……何か伝言はあるか」
ロザリオを掲げるマスターに、千鶴はもう一度 静かで穏やかな笑顔を見せた。
「僕を忘れないで……。そう、伝えて…」
その瞳が潤んでいる。
マスターは強く、千鶴を見つめて頷いた。胸で十字を切り、チェーンを揺らせば ロザリオから暖かい光が零れる。
フロアはまばゆい光で溢れ、マスターは片手をかざしてその眩しさに目を細めた。
光は一層強くなったかと思うと、何処かに吸い込まれるように消えていった。
光を失ったフロアに、千鶴はいない。
千鶴がいた場所には バイクのキーが落ちていた。
……稀に見ない豪雨の日、隣町のクラブへ向かおうとした少年が、バイク事故で亡くなったのは 少し前の話。
その少年の夢は『人々の心に残る歌い手になること』だった。
だけどもう一つ生まれた夢は、誰も知らない マスターと千鶴だけの暖かい秘密。
『どうか、君の夢は叶いますように』
「…大丈夫。もう充分、伝わってるさ」
キーを拾い上げたマスターは、月にそう囁く。
―――END
以下 後書き。
死ネタです、お気を付けて…。
――――――
あいつは…裕紀は、ヒデの事が好きだった……。
【黒板とチョークと黒板消し】
裕紀と俺はガキの頃からの幼なじみだった。
泣き虫で弱虫な裕紀はよくいじめられて、俺は「裕紀いじめたら許さねぇかんな!!」なんて言って助けていた。
ヒーローになるつもりなんかこれっぽっちも無かった。
ただ、裕紀が泣かされるのは我慢できなかった。
違う中学へ通うようになっても 休みの日はよく二人で遊んだ。
「良い奴なんだ。亮ともきっと気が合うよ」
ある日 裕紀がそう言って連れてきたのが、ヒデだった。
ヒデは俺と同じバスケ部で、夜中の全米戦のせいで遅刻と居眠りの絶えない、話の分かる良い奴だった。
試合でぶつかった時は、いつも本気にやり合った。勝っても負けても必ず笑って 握手をしてきた。
そんな馬鹿だけど律義なあいつが、裕紀との待ち合わせを、果たせなかった。
事故だった。
原チャリで裕紀を迎えに走ってたあいつを、運転ミスをしたトラックが轢いた。
ヒデは夏の日差しで焼けるように熱いアスファルトの上で、死んだ。
俺の誕生日の前日だった。
気まぐれなバスケ馬鹿が、俺を祝おうとした結果だった。
ヒデの最期の姿は 白い煙となって、空へと高く高く舞い上がっていく。
見れば 裕紀は煙を見上げたまま、頬に止めどなく涙を流していた。
ヒデ……俺はお前を許さないよ。
お前は裕紀の気持ちを知っていたんだろう。
知っていて なのに気付かないふりをしていたんだ。
………許せない。
「………クソッ!!」
堪え切れず、裕紀を抱き寄せた。震える肩を 強く強く抱く。
腕の中で 掻き消されそうな小さな声が ヒデ、とそう何度も届かない名を呼ぶ。
俺の服を掴み 肩口に額を強く押し付けて どうして、と泣く。
どうして……。
お前が裕紀を受け止めていたら、救われた心もあったはずだ。
お前が俺の誕生日なんか忘れていたら、事故は起きなかったはずだ。
「……裕紀…」
涙の伝う裕紀の頬を手の平で包む。
上げられた視線は俺を通り過ぎて 空のヒデを見上げた。
その瞳に映った青い空と白い煙が、憎くて悔しくて苦しくて。
ヒデ、俺はお前を許さないからな。
裕紀の中からお前を消してやる。
俺の中からお前を消してやる。
「……もう見るな、裕紀…」
指で頬の雫を拭う。唇を寄せ 重ねた。
「泣かないでくれよ…頼むからもう、泣くな……」
裕紀は俺を見て、少し目を見開いた。そうして ぐちゃぐちゃになった表情で鳴咽を零す。
「……亮も、泣かないでッ…」
気がつけば、俺は初めて泣いていた。
白い煙は 風に吹かれて、雲に溶けて消えていく。
お前なんか、お前なんか……
―――END
後書き→
――――――
あいつは…裕紀は、ヒデの事が好きだった……。
【黒板とチョークと黒板消し】
裕紀と俺はガキの頃からの幼なじみだった。
泣き虫で弱虫な裕紀はよくいじめられて、俺は「裕紀いじめたら許さねぇかんな!!」なんて言って助けていた。
ヒーローになるつもりなんかこれっぽっちも無かった。
ただ、裕紀が泣かされるのは我慢できなかった。
違う中学へ通うようになっても 休みの日はよく二人で遊んだ。
「良い奴なんだ。亮ともきっと気が合うよ」
ある日 裕紀がそう言って連れてきたのが、ヒデだった。
ヒデは俺と同じバスケ部で、夜中の全米戦のせいで遅刻と居眠りの絶えない、話の分かる良い奴だった。
試合でぶつかった時は、いつも本気にやり合った。勝っても負けても必ず笑って 握手をしてきた。
そんな馬鹿だけど律義なあいつが、裕紀との待ち合わせを、果たせなかった。
事故だった。
原チャリで裕紀を迎えに走ってたあいつを、運転ミスをしたトラックが轢いた。
ヒデは夏の日差しで焼けるように熱いアスファルトの上で、死んだ。
俺の誕生日の前日だった。
気まぐれなバスケ馬鹿が、俺を祝おうとした結果だった。
ヒデの最期の姿は 白い煙となって、空へと高く高く舞い上がっていく。
見れば 裕紀は煙を見上げたまま、頬に止めどなく涙を流していた。
ヒデ……俺はお前を許さないよ。
お前は裕紀の気持ちを知っていたんだろう。
知っていて なのに気付かないふりをしていたんだ。
………許せない。
「………クソッ!!」
堪え切れず、裕紀を抱き寄せた。震える肩を 強く強く抱く。
腕の中で 掻き消されそうな小さな声が ヒデ、とそう何度も届かない名を呼ぶ。
俺の服を掴み 肩口に額を強く押し付けて どうして、と泣く。
どうして……。
お前が裕紀を受け止めていたら、救われた心もあったはずだ。
お前が俺の誕生日なんか忘れていたら、事故は起きなかったはずだ。
「……裕紀…」
涙の伝う裕紀の頬を手の平で包む。
上げられた視線は俺を通り過ぎて 空のヒデを見上げた。
その瞳に映った青い空と白い煙が、憎くて悔しくて苦しくて。
ヒデ、俺はお前を許さないからな。
裕紀の中からお前を消してやる。
俺の中からお前を消してやる。
「……もう見るな、裕紀…」
指で頬の雫を拭う。唇を寄せ 重ねた。
「泣かないでくれよ…頼むからもう、泣くな……」
裕紀は俺を見て、少し目を見開いた。そうして ぐちゃぐちゃになった表情で鳴咽を零す。
「……亮も、泣かないでッ…」
気がつけば、俺は初めて泣いていた。
白い煙は 風に吹かれて、雲に溶けて消えていく。
お前なんか、お前なんか……
―――END
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