愛猫やらお人形やら美柴双子やら…
小話です。
――――――
その夜は稀に見ない大荒れのバッドディ、バケツをひっくり返したような豪雨だった。
ほとんどの店が看板をしまい込み、寂れた田舎の町中。
いつも以上に全く客が集まらないクラブ。
狭いステージで、冷めた気分のまま準備だけを進めるバンド。
「ねぇ 歌っても、いいかな…?」
いつの間にかフロアに佇んでいたのは、一人の少年だった。
【太陽と月】
あの日、客もいないからと歌わせた千鶴の歌声に 俺達はド肝を抜かれた。
今日は店を閉めると言いに来たマスターが、驚くほど間抜けな顔で 目と口をばっくり開けて 千鶴を見ていたのは、今でも最高の笑いネタだ。
それほどに千鶴の歌声は輝いていて、人間の芯に響くものだった。
ある人は『天使の歌声』
ある人は『選ばれた歌い手』
とにかく、千鶴には多くのフレーズがついた。
俺もこれまで何人かのバンマスに出会って来たけれど、千鶴ほどの奴には会った事がなかった。
まさに伝説のヴォーカリスト。
千鶴を中心に集まった俺達のバンドは いつしか都会にも知れ渡り、ついにお声が掛かった。
「なぁ…本当に来ないのか?」
だけど千鶴は何故か、行かないの一点張りだった。
千鶴が行かないなら俺も行かない と何度も説得と主張を繰り返したが、千鶴は「そんなのはダメだ」と悲しそうに笑うだけだった。
「……何でだ?いい加減 理由くらい教えてくれたっていいじゃねぇか。俺達、仲間だろ?」
送迎のワンボックスカーから、最後まで教えてもらえなかった質問を投げかける。
千鶴は、俺をじっと見つめた後 諦めたように息を吐いて、答えた。
「……僕はもう、何処にも行けない。帰れる場所もないんだ…」
今まで聞いた事のない沈んだ声と まるで闇夜のような深く暗い瞳。
「……え?」
言葉の意味を問う前に、突然両腕を広げた千鶴は 今度はいつものように華やかに笑った。
「僕は此処で待ってるよ!有名になったらさ、チケットはタダにしてくれるんだよね?」
「…バ―カ ついてこなかった罰として割増しで売りつけてやるぜ」
慌てて調子を合わせて くだらない冗談を口にした。
千鶴は満足気に頷き、頑張れ と手を差し出してくる。強く握手を交わした。
発進する車で、手は離れていく…。
指が解ける瞬間、千鶴のぬくもりが崩れたような気がして 不安になった。
けれど窓から顔を覗かせると、千鶴は優しく 手を振っている。
「絶対、有名になるからな!!」
そう叫べば、変わらない笑顔が返ってきた。
やはり千鶴の笑顔は 夜のステージでも揺るがない太陽だ。
その姿に、俺は夢の実現を心から誓った。
バンドを乗せたワンボックスカーが、角を曲がり 見えなくなった。
千鶴はその姿を見送り クラブを振り返る。
「……気が済んだか?」
扉に背を預けていたマスターが、体を起こしてそう言う。
「……うん…。、これで良いんだ…」
千鶴は穏やかに笑う。
マスターが開ける扉を潜り 薄暗いクラブの中へ歩む。
「……マスター、本当に感謝するよ…。本当に、ありがとう」
「……お前みたいな連中にそう言われるのは 初めてだよ」
千鶴は目を閉じ、深呼吸をする。天井を仰ぎ 来るべき”何か”を待つ。
「……何か伝言はあるか」
ロザリオを掲げるマスターに、千鶴はもう一度 静かで穏やかな笑顔を見せた。
「僕を忘れないで……。そう、伝えて…」
その瞳が潤んでいる。
マスターは強く、千鶴を見つめて頷いた。胸で十字を切り、チェーンを揺らせば ロザリオから暖かい光が零れる。
フロアはまばゆい光で溢れ、マスターは片手をかざしてその眩しさに目を細めた。
光は一層強くなったかと思うと、何処かに吸い込まれるように消えていった。
光を失ったフロアに、千鶴はいない。
千鶴がいた場所には バイクのキーが落ちていた。
……稀に見ない豪雨の日、隣町のクラブへ向かおうとした少年が、バイク事故で亡くなったのは 少し前の話。
その少年の夢は『人々の心に残る歌い手になること』だった。
だけどもう一つ生まれた夢は、誰も知らない マスターと千鶴だけの暖かい秘密。
『どうか、君の夢は叶いますように』
「…大丈夫。もう充分、伝わってるさ」
キーを拾い上げたマスターは、月にそう囁く。
―――END
以下 後書き。
――――――
その夜は稀に見ない大荒れのバッドディ、バケツをひっくり返したような豪雨だった。
ほとんどの店が看板をしまい込み、寂れた田舎の町中。
いつも以上に全く客が集まらないクラブ。
狭いステージで、冷めた気分のまま準備だけを進めるバンド。
「ねぇ 歌っても、いいかな…?」
いつの間にかフロアに佇んでいたのは、一人の少年だった。
【太陽と月】
あの日、客もいないからと歌わせた千鶴の歌声に 俺達はド肝を抜かれた。
今日は店を閉めると言いに来たマスターが、驚くほど間抜けな顔で 目と口をばっくり開けて 千鶴を見ていたのは、今でも最高の笑いネタだ。
それほどに千鶴の歌声は輝いていて、人間の芯に響くものだった。
ある人は『天使の歌声』
ある人は『選ばれた歌い手』
とにかく、千鶴には多くのフレーズがついた。
俺もこれまで何人かのバンマスに出会って来たけれど、千鶴ほどの奴には会った事がなかった。
まさに伝説のヴォーカリスト。
千鶴を中心に集まった俺達のバンドは いつしか都会にも知れ渡り、ついにお声が掛かった。
「なぁ…本当に来ないのか?」
だけど千鶴は何故か、行かないの一点張りだった。
千鶴が行かないなら俺も行かない と何度も説得と主張を繰り返したが、千鶴は「そんなのはダメだ」と悲しそうに笑うだけだった。
「……何でだ?いい加減 理由くらい教えてくれたっていいじゃねぇか。俺達、仲間だろ?」
送迎のワンボックスカーから、最後まで教えてもらえなかった質問を投げかける。
千鶴は、俺をじっと見つめた後 諦めたように息を吐いて、答えた。
「……僕はもう、何処にも行けない。帰れる場所もないんだ…」
今まで聞いた事のない沈んだ声と まるで闇夜のような深く暗い瞳。
「……え?」
言葉の意味を問う前に、突然両腕を広げた千鶴は 今度はいつものように華やかに笑った。
「僕は此処で待ってるよ!有名になったらさ、チケットはタダにしてくれるんだよね?」
「…バ―カ ついてこなかった罰として割増しで売りつけてやるぜ」
慌てて調子を合わせて くだらない冗談を口にした。
千鶴は満足気に頷き、頑張れ と手を差し出してくる。強く握手を交わした。
発進する車で、手は離れていく…。
指が解ける瞬間、千鶴のぬくもりが崩れたような気がして 不安になった。
けれど窓から顔を覗かせると、千鶴は優しく 手を振っている。
「絶対、有名になるからな!!」
そう叫べば、変わらない笑顔が返ってきた。
やはり千鶴の笑顔は 夜のステージでも揺るがない太陽だ。
その姿に、俺は夢の実現を心から誓った。
バンドを乗せたワンボックスカーが、角を曲がり 見えなくなった。
千鶴はその姿を見送り クラブを振り返る。
「……気が済んだか?」
扉に背を預けていたマスターが、体を起こしてそう言う。
「……うん…。、これで良いんだ…」
千鶴は穏やかに笑う。
マスターが開ける扉を潜り 薄暗いクラブの中へ歩む。
「……マスター、本当に感謝するよ…。本当に、ありがとう」
「……お前みたいな連中にそう言われるのは 初めてだよ」
千鶴は目を閉じ、深呼吸をする。天井を仰ぎ 来るべき”何か”を待つ。
「……何か伝言はあるか」
ロザリオを掲げるマスターに、千鶴はもう一度 静かで穏やかな笑顔を見せた。
「僕を忘れないで……。そう、伝えて…」
その瞳が潤んでいる。
マスターは強く、千鶴を見つめて頷いた。胸で十字を切り、チェーンを揺らせば ロザリオから暖かい光が零れる。
フロアはまばゆい光で溢れ、マスターは片手をかざしてその眩しさに目を細めた。
光は一層強くなったかと思うと、何処かに吸い込まれるように消えていった。
光を失ったフロアに、千鶴はいない。
千鶴がいた場所には バイクのキーが落ちていた。
……稀に見ない豪雨の日、隣町のクラブへ向かおうとした少年が、バイク事故で亡くなったのは 少し前の話。
その少年の夢は『人々の心に残る歌い手になること』だった。
だけどもう一つ生まれた夢は、誰も知らない マスターと千鶴だけの暖かい秘密。
『どうか、君の夢は叶いますように』
「…大丈夫。もう充分、伝わってるさ」
キーを拾い上げたマスターは、月にそう囁く。
―――END
以下 後書き。
うお長ッ…!!
全く小話じゃないから…!!
本当はもう少しこざっぱりと収めたかった……。やっぱり長くなった話を短く省略していくのは難しいです…;;
日々精進ですm(__)m
というか、SuperNatural見てた影響大です笑"
全く小話じゃないから…!!
本当はもう少しこざっぱりと収めたかった……。やっぱり長くなった話を短く省略していくのは難しいです…;;
日々精進ですm(__)m
というか、SuperNatural見てた影響大です笑"
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