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愛猫やらお人形やら美柴双子やら…
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■以下 中編。


まだまだ重いお話。

………ちゃんと幸せに終わるので!!笑



(鴇には中条さんが必要なんだ…!)

昼前。
突然中条宅へ押しかけて来た優希は まるで犯罪に出くわした被害者のようだった。

玄関を開けた途端、切羽詰った表情で 中条の胸に飛び掛ってきた。
一瞬 本当に何かあったのかと驚いた中条は、優希の手話を見て あぁ…と納得する。
けれど、優希を安心させるような話が出来るわけではなかった。




「……落ち着いたか?」
(…………。)

腕の中でこちらを見上げ コクリと頷いた優希をようやく解放した。

とりあえず部屋に通し、落ち着けと何度も宥めた。
ほとんどパニック状態の優希は 壊れたように何度も(帰ってきて)と全身で叫んでいた。
焦点が合わずボロボロと溢れる涙を拭ってやりながら、両頬をぐいと包んで 目と目が合って話せるようになるまで待ったのだ。


「…ったく。靴も履かないでお前は……」

そう、優希は驚くことに本当に寝起きのままの姿だった。
寝巻きに裸足。そんな姿で 家からここまで走ってきた。
おそらくあの様子では周りなんて見えてなかっただろう。
恐ろしいことこの上ない。


「事故ってたらどうすんだよ…」

それこそ美柴がおかしくなっちまうだろ。
思わず口をついたそんな言葉に 自分自身にチッと舌打ちが零れた。

(……?)
何を言ったのかは分からなかったのだろう。
優希が不安げに首を傾げて見上げてくる。

「事故ってたらどうすんだ」
今度は簡単に手話を交えて 必要な事だけ口にした。
しゅんとする優希は ごめんなさいと手を顔の前で握った。


(でも、メールしても……届かなかったから…)

恐る恐るいきなり核心を突いてくる。
…胸が痛まないわけがない…。けれど、忌ま忌ましげに重い溜息を吐き出した。


「届かないってことはどうゆう事か分かるだろ」
(っ……)
心の痛みに耐えて唇を噛む優希の仕草が、美柴と重なる。
きっとこうして この子供は成長していく。
そしていつかは親の手を離れていくのだ。

優希が美柴の糧になっていることはよく分かっている。
自分だって それなりに親心に近い気持ちで見守ってきたつもりだ。

けれど、この『糧』は美柴自身の『枷』にもなってしまっている。
優希にその気はなくても、その存在が美柴を縛り付ける。

美柴鴇はとても不器用で、自分の為に生きるということが出来ない人間だ。
悪夢や過去に苛まれるような生き方ばかりしている。

弟の次は優希、…じゃあ優希の次は?

美柴にはその答えは無かった。

とにかく、中条から見て 美柴と優希はお互いに寄り掛かりすぎなのだ。
そしてこれ以上近くに居たら 自分まで二人の『枷』になってしまうような気がした。
必要以上に あの空間に甘えてしまうような気がした。


「俺はもうお前らとは」
(僕は出て行くよ。)
遮ったとんでもない手話に、「はあ?」と本気で目を丸くした。

(もう鴇にはいっぱいお世話になったんだ。だからもう鴇は僕の事気にしなくたっていい。)

優希の表情は怖いほど冷静で 真摯で 本気だった。

(中条さんが鴇のところに帰ってきてくれるなら、僕はそれが一番いい。)
(鴇には悲しい想いをして欲しくないんだ。)
(あんな風に泣く鴇なんて、見たくない。)
(僕は出て行く。だから、中条さんは鴇の傍に居て。)

先程の混乱から一転、覚悟を決めた藩士のような眼差し。

(……お願い。鴇には中条さんが必要なんだよ。)
「………………………」
(……中条さんだって、鴇のこと 大事でしょう…?)
「………………………」
(だから、二人が一緒に居られるなら 僕は本当に病院に戻ってもいいと思ったんだ)

優希の言い分が終わると、狭い一室はより一層重く静まり返った。
じっと交差していた視線を外し 中条は長い長い息を吐いて テーブルに腰を掛けた。

「…………………」
何も知らなかった子供がこんな事を言うなんて。

「……そんなんで美柴が喜ぶとでも思ってんのか…」

苛立ちのほうが強かった。

「だいたい世話になったって何だ。てめぇ自分のこと下宿人か何かだとでも思ってんのか? そんなつもりでいんならな、最初っから世話になんかなるんじゃねぇーよ」

……違う。これは自分自身に言うべき言葉だ。

頭の隅でそう感じながら、優希を見下ろす。
こんな言葉、例え八つ当たりでも優希に言うわけにはいかないと思って 絶ったのに。

「いつまでも美柴を縛りつけるぐらいならな、家からも此処からも さっさと出てけ」
(分かってるよ!!)
次に爆発するのは優希だった。
ダン!と立ち上がると 傷ついた剣幕で中条に詰め寄る。

(鴇が僕のせいで色んな事 犠牲にしてきたのは分かってる。でも僕には鴇しか居なかったんだ…!)
(どうすればいいの!?どうすれば元に戻るの!?)
(僕はもう子供には戻れないのに…!!)

言葉にならない声をあげ、優希は崩れて泣いた。


「…………………」
中条は その悲鳴のような泣き声が止むまで、煙草を吹かして 胸に広がる苦い感情をごまかしていた。

あの夜 美柴に言い過ぎた事も、
まだ優希が子供だという事も、分かっている。
けれどどうしても 帰ることは出来なかった。

………言葉で美柴を裏切った。傷つけた。
一度壊した関係を 元通りになんかできやしない。

「………帰れよ いい加減」
しばらくして、優希の上にコートを落とす。

「お前のだ。靴は美柴が置いてったのがある。いちいち片付けてらんねぇーからな、履いてけ」

……片付けようと思っても、いざ手に取ると そう出来ずにいたのだ。
掃除は苦手だと自分に言い訳をして、片隅に置いていた。

自分から突き放すくせに、似合わない感傷をする自分に嫌気がさす。
いつの間にか 二人の存在はこんなにも自分を変えていた。


(最低だ…)
ぐすと鼻を啜り 自分のコートを羽織った優希は、せめて最後の抵抗と 泣きながら中条を睨んだ。

(中条さんも鴇のこと 大切に思ってるって、思ってたのに…!)

胸に広がり続ける苦い痛み。
わざと優希に煙草を吹く。

「……帰れ」
(……~~っ)

目一杯に涙を溜めて 中条を悔しさや悲しみで睨みつけ、優希は漂う煙を振り払い 玄関に駆ける。
まだ幼くて 頼りない背中を遠く見る。

「………事故んなよ優希」

一度も振り返らずに 美柴の靴を履いて出ていく優希に、そっと言った。


…………聞こえなくても、構わなかった…。
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