忍者ブログ
愛猫やらお人形やら美柴双子やら…
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


■以下、後編の前編。




優希が帰ってこない。
まだ昼だが、美柴は気が気では無かった。

昼飯になっても起きてこない優希を起こしに行って、ようやく優希が居ないことに気がついた。

いつの間に出掛けたのだろう…?
物音一つも全く気付かなかった。
……最近そんな事が多い。優希は敏感だから、気を遣わせてしまっているかもしれない…。
気をつけないと、とソファーに深く座り込み 溜息を吐く。


美柴は、優希の携帯が部屋に置きっぱなしになっている事を知らない。
まさか先刻の自分の姿を見られたとは知らず、アトリエに忘れ物でも取りに行ったのだろうかと 思っていた。


(……………。)
居場所を探るメールを優希に送ってから、もう30分は経とうとしている。
時計と携帯を交互に見て また溜息が零れる。


優希はどんな事でも 自分から率先して マメにメールを寄越してくるタイプだ。
その連絡が無い時は、たいていが何かに巻き込まれている時。
そして代わりに石井刑事やアキラから すぐ来てくれと連絡が来るのだ。

(………………。)
優希は小さい頃から本当に不可解な体験を何度もしている。
突然糸が切れたように倒れたり、何にもぶつかっていないのに酷い打撲傷が身体に出たり……。

まさかどこかでそんな目に遭ってるんじゃないだろうか。
メールも打てないような具合なんじゃないだろうか。
遅い帰りと返事のないメールに、心配が大きくなりはじめていた。



アキラに連絡してみようかと思い立った頃、玄関のドアが開いた。
その音と通報ランプに 美柴は安堵の息をつく。


リビングから出て どこに行っていたのかと尋ねようとし、優希の姿を見て目を見張った。

寝間着と寝癖で毛先の跳ねた髪。
手には脱いだらしいコートを抱えているが、寝起きのままの姿には変わらない。

優希は例えコンビニに行くだけだとしても、絶対にそんな格好で外に出たりはしない。

驚いて、俯いて部屋に逃げ込もうとした優希を慌てて引き止めた。
泣き腫らした赤い目と視線がぶつかり、驚きは更に重なる。

こうゆう時、言葉を飲み込んでしまう自分の性格が惜しい。

「……どうした」
(どうもしないよ)
そう笑って やんわりと手を振りほどく。
何があったのか検討がつかず、糾弾することも出来ない。ただ心配で、無理に作っている引き攣った笑顔を見つめた。

(…ごめん、ちょっと寝るね)

部屋に入る優希から、微かに煙草の匂いが舞った。
覚えのある残り香にはっと息を飲む。
全部を察した。
パタリと閉じたドアの向こうに、声を掛けることは出来なかった。



自分の部屋に戻り、美柴は携帯を手にする。
重々しい気持ちで 中条を通話に呼び出した。


「……何だよ」
「…優希が行っただろ」
「……なんかあったのか?」
「質問してるのはこっちだ」

毅然と言い張ると、電波の向こうで中条がうんざりと溜息を吐き出すのが分かった。

「………あぁ 昼前に来た」
「何を言った」
「別に何も?すぐ追い出したからな」
「泣かしただろ 何を言ったんだ」
「あ?帰れとしか言ってねぇーよ 勝手に泣いたんだろ。んな事でいちいち電話し」
「泣かすなら会うな…!」
「………会いたくて会ったわけじゃねぇーよ。優希が自分から家に来たんだ」
「……なんで」
「知るかよ」
「何か言ったんじゃないのか」

悪びれない中条の声に 憤りや疑念が殺しきれず 声に出てしまう。

気にいらないなら俺だけに言えばいい。
優希を傷つけるのは許せない。
同じ気持ちで、優希を愛してくれていると思っていたのに。
優希のことを、理解してくれていると思っていたのに。

「傷つけるようなことを何か…!」
「ははっ」
責め立てるうちに聞こえたのは、渇いた笑い声。
どうせまた煽るような事を言うのだろう と思い、むと押し黙って 中条の反論を待った。

「……美柴、お前もう……俺のこと信用出来ないだろ…?」
「ッ」

もっと嘲笑うような口調だと思っていたのに、中条のそれはひどく傷ついた声だった。

「……………美柴?」
徹底的に、何かが終わってしまったような気がした。


何も言えず、通話を遮断した。


そのままベッドに倒れ込む。
睨みつけた天井が、徐々にぼやける。胸が重い。苦しい。



優希と美柴には 中条が知らない時間がある。
二人で乗り越えてきた壁がある。
優希の痛みを、美柴の痛みを、互いに支え合ってきた時間がある。
それは何ものにも変えがたい宝物だ。

例えそれが恋人との天秤だとしても、自分自身との天秤だとしても、美柴は優希を選ぶ。

それを中条は自己犠牲だと苦々しく言うが、自分はそう思ったことは一度もない。

何があっても、もう絶対に優希だけは失わないと誓った。
そこに理屈は無い。



「………………」
元に戻るだけだ。
最初の頃のように、二人で支え合って生きていけばいい。
最後に残ったあの指輪さえ捨ててしまえばきっと、この家に残る中条の気配なんて すぐに消えてなくなるはずだから。



だけど……どうして…



「……………ッ」

息が詰まるほど堪えて、声を殺して泣いていた。



PR
<< NEW     HOME     OLD >>
Comment
Name
Mail
URL
Comment Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
 
Color        
Pass 
<< NEW     HOME    OLD >>
カレンダー
11 2025/12 01
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31
カウンター
New
Profile
HN:
NANO
性別:
女性
自己紹介:
■Like■
ゆるカジュ
峰倉作品
■Love■
清春(神)
美柴鴇(BUSGAMER)
Super Dollfie(オーナー歴三年)
近況報告
2010年も BUSGAMER至上主義で参ります…!! マイナー万歳!!
コメント
[06/09 華爛]
[06/02 結]
[05/31 華爛]
[05/31 紅夜]
[05/30 ありこ]
ブログ内検索
■■■
忍者ブログ [PR]
 Template:Stars