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愛猫やらお人形やら美柴双子やら…
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■未来捏造シリーズ。
大人鴇 と 無聴覚の子供。そこに中条さん。


…大変な事になってしまった…僕のせいで……。


【自転車の話。】


たまに、中条さんと鴇の休みが重なる時がある。
そうゆう日は 何も予定がなければ 中条さんに色んな所へ連れて行ってもらえる。
水族館、動物園、海、大きな公園。僕の知らない所ばかり。
僕は、そうやって三人で出掛けるのが すごく好きだ。

「すげーな こいつ。一発で5万も当てたぜ」
「…偶然だろ」

だけど 今日は全然楽しくない。
僕の前に中条さん、僕の横に鴇。
さっきからずっと二人で何か言い合いをしている。
そう、今日も二人の休みが重なった。そうして 大きなケイリン所に来ていた。
最初は 鴇が嫌そうな顔をしていたけれど、中条さんに 何事も経験だと連れられてきた。
僕が何をする所なのかいまいち分からないでいると、中条さんに 好きな数字を選ぶように言われた。
僕が適当に言った番号のせいで、なんだか大変なことになってしまった。


ーーーーー……


「よし、優希お前欲しいもんは?」

札を手に、中条が優希を見下ろした。見られた方は ポカンと見つめ返す。
唇が読めなかったわけではない。話の筋が見えないのだ。
それは美柴も同じ。優希と二人、中条を見返す。

「この金は優希が当てた金だ。だから、優希の好きに使えんだよ」
ニヤリと応える中条に対し、優希は戸惑いながら美柴を見上げる。その視線を受けて、美柴が溜息をつく。

「……優希に変なこと吹き込むな」
「これはれっきとした大人の授業だよ」
「中条さんの授業なら必要ない」
「堅物保護者は黙ってろ」

ムッと眉を寄せる美柴を無視し、中条は優希の前にしゃがみ込み 視線を合わせる。

「なんか欲しいもんあんだろ?このあと買いに行くぞ。何がいい」
ん? と促しても 優希は俯いてしまう。
肩掛けバッグをぎゅうと握る手を見れば、本当は欲しい物があることくらい 誰だって分かる。

「ガキが遠慮なんかすんじゃねーよバカ」
べしっと 小さい頭を叩くと、優希は驚いて顔を上げた。唇が読めるように、同じ言葉をもう一度繰り返す。
優希は 叩かれた頭をさすりながら、何度か ちらちらと顔色を伺うように美柴を見る。その様子に 美柴すら怪訝に首を傾げる。

いくらなんでも遠慮しすぎだ。
一体何が欲しいってんだ。

しばらくして 優希の指が 短いサインを作った。
途端、美柴の表情が厳しいものに変わる。察した優希が肩身狭そうに俯く。

「何だ、なんつったんだ?」
「何でもない。」
「あぁ?今なんか言っただろうが」
「何でもない。」

手話を読めない中条は 美柴を通さなくては優希の言葉が分からない。
しかし頑なに伝えようとしない美柴に苛立ち、中条は優希の身体を引っ張り込む。
中条の後ろに隠れると、優希も しっかり腰元にしがみついてきた。その目は美柴を恐る恐る見つめている。

これじゃあ俺はまるで母親に叱られる子供を庇う父親だ、まったく。

「……自転車だ」
「自転車?」
2対1の状況に、美柴は罰が悪そうに眉を寄せて 答えた。
自転車。それのどこが悪い。このぐらいの歳から乗り出すものだろう。

「んなもん、買ってやりゃいいじゃねぇーか」
「駄目だ。」
「なんで」
問うと、美柴は微かに溜息をはいて 中条を見据えた。

「危険だからだ。優希にも、そうゆう事は前にちゃんと話してある」
「耳が聞こえねぇーから やりたい事諦めろってか?」
「………………」
「そりゃあ 危ないってのも分かるがな、そんなもん耳が悪かろうが良かろうが同じだろ」
「………………」
中条の言い分に、美柴はただ黙っていた。
何も言わず、中条から視線を反らし 聞こえていないような顔をしている。
美柴は都合が悪くなると押し黙る性格をしている。それを承知の中条は 呆れたと溜息を返した。

「お前はそうやって、優希の可能性潰してくつもりか」

その言葉に 美柴の表情は凍った。

「……そうゆう事じゃない」
「そうゆう事だろ。源に優希はチャリを欲しがってる。お前が言い聞かせた時は そりゃあ納得したような素振りだったかもしれねぇーけどな、心ん中じゃ こいつだって普通のガキと同じ事したいって思ってるに決まってんだよ。それをお前が押さえ込んでんだろ」
「ー…」
美柴は咄嗟に強い調子で何か言い返そうと顔を上げた。
何を言うのかと 構えてみたが、結局美柴はその言葉を苦しそうに飲み込んでしまった。

「………………」
美柴が言おうとした言葉を、中条は 分かっている。
心配で心配で堪らないのだと、そう言ってくれば お前一人で背負い込むからだと 言ってやるのに。
なぜ 言い返してこない。なぜ 頼ろうとしない。
沈黙が更に苛立ちを増幅させた。

ピリピリと不穏な空気に、優希が慌てて 中条の後ろから飛び出す。
美柴の腰にしがみついて 笑いながら手話を見せる。

(自転車なんて、ウソだよ。カメラが良い。一番新しいカメラにする!)

美柴は サインを読んで、唇を噛んだ。
優希からも、中条からも顔を反らし 込み上げた感情を殺そうとする。

「…おい、優希なんだって?」
「…………カメラでいいって…」
「………………………」
中条は 美柴を冷めた目で見てから、優希の頭を撫ぜた。
「…そうか。じゃぁ、明日買いに行ってやるよ」
嬉しそうに頷く優希を連れて、車へと戻る。
一歩遅れて 美柴が続く。横目に見たその表情は 自己嫌悪で潰れてしまいそうだった。


ーーーー………


ベッドで眠る優希の髪を梳いて、美柴は何度も溜息を落としていた。

「………………」
中条に言われた言葉は、自分でも分かっている事だった。
本当は、優希の望むことなら何だって 出来る限りの事をしてやりたい。
そう想っているのに、優希が傷つくのが怖くて 抑圧してしまうところがある。

二人で道路を歩いていても 危険だと感じる瞬間がよくある。
突然何かに駆け出したり ひどい時は車道に飛び出すことさえある。
引き取る時も その点を特に言い聞かされた。優希には危機感がない。
それで自転車なんて……簡単に許せるわけがない。

でも……。
静かな眠り顔に あの気遣うような笑顔が重なる。心が痛む。
優希にはきっと今後も、諦めなくてはならないことが たくさんあるのだ…。優希は 他の子に比べて 未来の選択肢が少ない…。
本当は、本当は、お前に何だってしてやりたいのに…。
心の中で何度も謝る。きっと優希は 平気だと笑うだろう。
だけど 何もしてやれない自分が許せない。

優希の未来を潰している自分が、許せない…。


■長くなったので切り替えます。




翌朝。
鳴り響いたチャイムの音に 美柴が玄関に降りた。
おそらく中条だ。優希を連れて、カメラを買いに電気屋にでも行くのだろう。

自己嫌悪でろくに眠れなかった美柴は、自分は行かないと伝えようと思いながら 重くドアを開けた。

「よぉ。朝っぱらからヒデェー面だな」
「…………………」

皮肉に応える言葉も、迎え入れる言葉も、出なかった。
まず真っ先に中条の足元に視線が落ちた。次いで 顔を上げると 中条は何事もなかったように ニヤリと笑っている。

「……中条さん…」
「優希はまだ寝てんのか?貢いでもらったガキが良いご身分だな?」
早く起こせ と催促する。そんな横暴な言い方さえ気にならなかった。

真新しい青い自転車が、そこにあるのだ。
カゴの中には 小さい子供用のヘルメットが収まっていた。
中条の足元にあるからか とても小さく感じる。

ガチャリ。
振り返ると、パジャマ姿の優希が目と口を大きく開いて 自転車を見つめていた。
ぱぁと笑顔になり、一目散に駆けて 自転車のハンドルに触れる。
中条がその目の前に ヘルメットとサポーターを吊るして見せた。
差し出されたそれを受け取り 中条を見上げ 満面の笑顔で何か伝えようとし……しかし ハッと息を飲むと 一変しておずおずとした表情で美柴に視線を向けた。

「………………」
美柴には、もう何も言えなかった。
軽い溜息を吐きつつ、自然と表情が緩み笑ってしまう。
まったく、こんなに悩んできた自分がバカみたいだ。

(……鴇、自転車…いいの?)
(………二つ、約束をしろ)
優希と視線を合わせ、ここからは手話と口頭の両方を使った。

「絶対に道路に出るな」
「…おいそれじゃ意味ねぇーだろ」
「きちんと歩道を走れ」
「…あぁ そうゆう事か」
「うるさい」
口を挟む中条を キリリと睨んで黙らせ、二つ目の誓いを突きつける。

「それと、乗れる様になるまで、絶対に泣き言は言わない。」

強く優希を見て そう言った。いいな と念を押すと、しっかり美柴を見つめ返し 大きく頷く。
その様子に くしゃりと頭を撫ぜ、着替えて来いと背中を押した。
優希は パタパタと大急ぎで部屋に飛び込んでいった。

ふぅと息を吐いて 立ち上がると、中条と目が合った。
なんだか ニヤニヤとした笑みでこちらを見ている。

「……何だ」
「やれば出来るじゃねぇーか、お母さん」
わざとらしい呼び方に腹が立ったが、言い返す言葉はもう用意が出来ていた。

「しっかり練習させろ お父さん」
「………は?まさか俺が教えんのか?」
当たり前だろ と冷ややかな視線で答えた。
中条は めんどくさいとぼやきつつ 煙草に火をつける。

「優希の前で吸ったらもう家に上げない」
「ったく、いちいちめんどくせぇー母ちゃんだなぁ 来たら消すっつーの。下の公園にいっからな」

咥え煙草で ひょいと軽々と自転車を片腕に持ち上げると、エレベーターへと向かう。

「まって!!」
その声を、久しぶりに聞いた。舌足らずで 少し聞き取りにくい、少年の弾んだ声。
美柴がその声に驚いて振り返る時には もう優希が脇をすり抜けて玄関を飛び出していた。
その兎のような姿を視線で追うと、優希は中条に体当たりする。
バランスを崩して 転びそうになった中条が ゴツンとその頭に拳を落とした。

「おま、危ねぇーだろーが!」
しかしその拳骨は痛くなかったのだろう、優希は気にせず 羨望に近い眼差しで中条を見上げている。
そのキラキラとした子供の視線に 半ば負けた形の中条の横で、優希が振り返った。

(乗れるようになったら、鴇も乗せてあげるね!)
(……………………。)

………それはどうだろう…。
自信満々の笑顔で見せ付けられたサインに どう返していいのか分からず、苦笑いを返すしかなかった。

「先行ってっからな、コーヒーぐらい持って来いよ」
ひらひら。中条は前を見たまま軽く手を振り、やる気無さそうな声で 美柴にそう言った。
なんとなく照れくさいのかもしれない。あれじゃぁ まるで本当に”お父さん”だ。

階下へと見えなくなった中条と優希の姿を想い、ふと自分の中にあった重みが消えていることに気がついた。

……これでいいのかも知れない。

『鴇、子供ってのは 大人みんなで育てていくものなんだよ』

いつか言われた 店長の言葉が、今、とても胸に沁みる。



■吐いて楽になって もっと幸せ (星座の夜 清春)

………留まることを知らない未来捏造シリーズ。笑
咥え煙草でお父さんやってる中条さん、個人的にかなり萌えます。
どちらかといえば 優希には、中条さんの背中を大きいと思いながら育って欲しいです。そして美柴さんは若干その憧れを危険視していて欲しいです。笑
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今回はまたとても暖かみがあっていいなぁと思いました。
小説読みながら光景(妄想?)が浮かんで来ました(笑)
祐希|2009/01/22(Thu)|Edit
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