愛猫やらお人形やら美柴双子やら…
■優希シリーズ。パパ化が進む中条さんと ずる賢いちび優希くん。
フリーライターと言えば聞こえは良いが、実際にはそれほど気ままな職業ではない。
エッセイやレポートなどを熟す手前 それなりに自分に合った仕事だと自負しているが、それでも 人から頼まれた原稿となると勝手が違う。
締め切りが迫れば迫るほど 息詰まるものだ。
夕刻前。美柴宅。
中条は昼飯後からもう3時間以上 キーボードを打っては消し、消しては打っている。
なかなか続かない文面を何度も反芻する。
何か良いアイディアは無いものかと思い悩む。
キーボードを叩く指は止まり、デスクの表面をコンコンコンと小さくノックしていた。
その音で家主は居候の不調に気がつくのだろう。
睨み合っていたパソコンと中条の間に、ふと煙草のケースが差し出される。
「………………。」
突然現れた目の前の煙草を見て、次いでいつの間にか傍らに立っていた差出人を見上げた。
「…………吸ってくれば」
見上げられた美柴は もう一度、促すように中条の目前に煙草を差し出す。
その気遣う表情に 中条はふと笑んだ。
固まっていた肩の力が、ほっと抜けたような気がする。
一つため息を吐き出して、そーだな とスツールから腰を上げた。
タバコを受け取り、美柴の額へ悪戯なキスを落とす。腰を軽く抱くのも忘れない。
感謝の意を込めたキスだった。
それにほんの少し戸惑って目を反らす様子を にやんと笑って覗き込む。
「本当なら、一緒に寝てくれたほうが気分転換になるんだけどな?」
「……起きられなくなる」
「お前がな」
「…………………。」
厳しい一瞥を食らい、手早く退散することにした。
ダイニングに掛けてあるジャケットを羽織る。
テーブルから財布を取り上げると、窓際で絵を描いていた小さな影が とてとてと駆け寄ってきた。
(どこか行くの?)
小首を傾げて見上げてくる優希に 散歩だと伝えると、ぴくんと体が反応した。
(一緒に、行ってもいい?)
「コンビニ行って帰ってくるだけだぞ?」
それでも構わないという顔をするから、脇にあったニット帽をポスンと被せる。
美柴も了解して、優希にマフラーを結んだ。
「これじゃあナンパはできそうにねーなぁ」
「優希のほうがモテる」
「…………どうせ三十路だよ」
優希のお目当てはおそらくコンビニに売っているケーキだ。
きっと今日の買い物ではケーキやマカロンは買わなかったのだろう。
スイーツ命の優希のことだ、内心かなり残念だったに違いない。
…………つまり、(鴇がダメなら中条さんだ!)的な考えだ。
「……中条さん」
美柴も優希の魂胆は分かっている。
おかげで出掛け間際、せかせかとブーツを履く優希を待つ間、俺は堅物保護者様から釘を刺された。
「わーってるよ、余計な買い物してこなきゃいーんだろ?」
「……昼にクレープ食べてる。」
「はいはい」
「………昨日も病院の帰りにマカロンを」
「分かったっつってんだろーが」
「…………………まだ夕飯前だから」
「しつけーよ!!」
そして結果。
(中条さん、ありがとっ)
小さな兎は見事にシュークリームを手に入れた。
「…………大概甘いな 俺も…」
優希の満面の笑顔を見て、思わず中条は自分自身に苦笑する。
結局 うるうると腰の辺りから見上げてくる幼い視線に負けて、「黙ってろよ?」と口止めして買ってしまったのだ。
公園のベンチに二人並んで座り、片方は煙草、片方はシュークリーム。
いつもなら紅い彼にNOと言われている物を 二人でこっそり楽しむ。
そんな時間は案外気分が良いものだ。
「早く食っちまえよ。怪しまれっからな」
ペリッと包装を破いて、優希へ渡す。
受け取った優希は中条の唇を読んで うん!と張り切って頷く。
風向きに気を配り 煙草を吹かした。
半日ぶりの煙は肺に沁みて、何とも言えない満足感があった。
ストイックに禁煙をしているわけではないが、あの家に居る時は吹かさないようにしている。
一度、美柴の留守を狙って優希の前でズカズカと一箱吸ったら、見事に告げ口された経験も影響しているが…。
だったら自分の家で原稿を上げればいいと思うだろう。
確かに 原稿の内容や資料が とてもじゃないが教育上宜しくないものであったり、あまり美柴には見せたくないような裏関係のものだった場合、自宅で上げている。
しかしそれ以外の題材であった場合は 持ち込んで行く。
身近に客観的な意見を聞くこともできるし、何しろ先刻のようなささやかな気遣いを受けるのが たまらなかったりする。
「………丸くなったもんだ」
なんだか妙に年を取ったような気がする。でも、
(中条さんも食べる?)
それを負い目には感じない。
「お前のもんだ。全部食っちまえ」
荒れた過去があるからこその、この未来だ。
きっと美柴も そう感じて新しい家族を愛している。
(中条さんに一個だけ、秘密教えてあげる)
一本を吸い終えて 背もたれに背を預ける。
吹き上がる噴水を見ていると、視線の脇で優希の手話が見えた。
なんだと見やると そっと笑う子供。
(シュークリームのお礼。僕が知ってる秘密教えてあげる。)
「あ?なんだそりゃ」
もったいぶって クスクス笑う優希は じっと上目に中条を見つめた。
(トキは中条さんの事、好きなんだよ。だけど ないしょにしてるんだ)
とんでもないサインだった。
思わず眉を寄せて 首を傾げる。
「………んな事、なんで分かる?」
(分かるよ。見てたらちゃんと分かる。トキは中条さんが大好きだよ)
繰り返される『好き』という台詞が厭に痒くて、思い知る。
……俺たちは互いに「好き」という言葉を言った事は一度もない。
けれど優希には、それが感じられるのだ。身近な存在だからこその、感性。
「……美柴の事、よく知ってんだな」
なんと応えれば良いのか分からず、そんなありきたりな返事を返した。
すると優希は こちらの引っ掛かりを知ってか知らずか えへんと胸を張って笑う。
(知ってるよ!中条さんよりいっぱい知ってるっ負けないんだから!)
そのサインに 想う。
「………俺が美柴といるのは嫌か?」
たった二人だけの小さな家族。
美柴と優希は、お互いが失ったものを補い合うように ひっそりと穏やかに暮らしている。
その生活に少しずつ入り込んでいる大人を、どう感じているのだろう。
取られてしまうと、感じるのだろうか…
(………………。)
唇を読んだ優希は一変、肩身狭そうに怖ず怖ずと中条を見上げた。
小さな指先はそっとサインを繋ぐ。
(……僕はそんなつもりで、言ったんじゃないよ…?)
「…………。」
一拍、不覚にもぽかんと優希を見てしまった。
こんな子供が 自分と美柴に気を遣っている。
(中条さんは、トキからいなくなったりしないで…)
「……………。」
………その言葉の真意を、なんとなく悟る。
『子は鎹』とはよく言ったものだ。
泣き出しそうな瞳に、ははと軽い笑いを溢した。
「心配すんな、別に誰も居なくなったりしねーから」
ぐしゃぐしゃと幼い頭を強く撫でる。
嘘の無い中条の言葉に、ようやくぱぁと華やいだ優希はその手の平に甘えて、笑った。
「よし。じゃ俺も一つ、美柴の秘密を話してやる」
(…?)
目線を合わせ、ゆっくりと言葉が伝わるように言う。
「美柴はお前のことが、世界で1番大切だ」
読んだ優希は 驚いて 目を瞬かせる。
「俺よりも、自分よりも、……お前の幸せを願ってる」
見てれば分かる。
この存在をどれだけ大切に想っているか。その笑顔でどれだけ救われているか。
何ものにも変えがたい、宝物だ。
人差し指をそっと優希の唇に乗せた。
「秘密だぞ」
照れくさげに俯いて はにかんだ優希は、真似をして中条の唇に人差し指を伸ばす。
(ひみつだね!)
そう穏やかな笑顔を交わして、さてとベンチから立ち上がる。
頬に食べ終わったシュークリームの痕跡が無い事を確認して、優希のマフラーを軽くなおした。
「帰るか」
(うん!)
手を伸ばすと 小さな暖かい手が掴み返してくる。
「帰ったら手ェ洗わねーとな。あいつ昔っから犬みてーに鼻が利くからな、甘い匂いでバレるかもしんねーぞ」
(トキが犬。)
「……………お前、それ絶対美柴に言うなよ。秘密だ秘密」
(…どうしようかなぁ)
「……明日チョコレート買ってきてやる」
(ひみつです!)
愛しさが刻み込まれるような気がした。
■君の未来 幸せがずっと続くように… (slow/清春)
優希くんは中条さんとアキラ君から見ると 良い性格してるという設定。笑
というか、美柴さんのママっぷりが…!笑
フリーライターと言えば聞こえは良いが、実際にはそれほど気ままな職業ではない。
エッセイやレポートなどを熟す手前 それなりに自分に合った仕事だと自負しているが、それでも 人から頼まれた原稿となると勝手が違う。
締め切りが迫れば迫るほど 息詰まるものだ。
夕刻前。美柴宅。
中条は昼飯後からもう3時間以上 キーボードを打っては消し、消しては打っている。
なかなか続かない文面を何度も反芻する。
何か良いアイディアは無いものかと思い悩む。
キーボードを叩く指は止まり、デスクの表面をコンコンコンと小さくノックしていた。
その音で家主は居候の不調に気がつくのだろう。
睨み合っていたパソコンと中条の間に、ふと煙草のケースが差し出される。
「………………。」
突然現れた目の前の煙草を見て、次いでいつの間にか傍らに立っていた差出人を見上げた。
「…………吸ってくれば」
見上げられた美柴は もう一度、促すように中条の目前に煙草を差し出す。
その気遣う表情に 中条はふと笑んだ。
固まっていた肩の力が、ほっと抜けたような気がする。
一つため息を吐き出して、そーだな とスツールから腰を上げた。
タバコを受け取り、美柴の額へ悪戯なキスを落とす。腰を軽く抱くのも忘れない。
感謝の意を込めたキスだった。
それにほんの少し戸惑って目を反らす様子を にやんと笑って覗き込む。
「本当なら、一緒に寝てくれたほうが気分転換になるんだけどな?」
「……起きられなくなる」
「お前がな」
「…………………。」
厳しい一瞥を食らい、手早く退散することにした。
ダイニングに掛けてあるジャケットを羽織る。
テーブルから財布を取り上げると、窓際で絵を描いていた小さな影が とてとてと駆け寄ってきた。
(どこか行くの?)
小首を傾げて見上げてくる優希に 散歩だと伝えると、ぴくんと体が反応した。
(一緒に、行ってもいい?)
「コンビニ行って帰ってくるだけだぞ?」
それでも構わないという顔をするから、脇にあったニット帽をポスンと被せる。
美柴も了解して、優希にマフラーを結んだ。
「これじゃあナンパはできそうにねーなぁ」
「優希のほうがモテる」
「…………どうせ三十路だよ」
優希のお目当てはおそらくコンビニに売っているケーキだ。
きっと今日の買い物ではケーキやマカロンは買わなかったのだろう。
スイーツ命の優希のことだ、内心かなり残念だったに違いない。
…………つまり、(鴇がダメなら中条さんだ!)的な考えだ。
「……中条さん」
美柴も優希の魂胆は分かっている。
おかげで出掛け間際、せかせかとブーツを履く優希を待つ間、俺は堅物保護者様から釘を刺された。
「わーってるよ、余計な買い物してこなきゃいーんだろ?」
「……昼にクレープ食べてる。」
「はいはい」
「………昨日も病院の帰りにマカロンを」
「分かったっつってんだろーが」
「…………………まだ夕飯前だから」
「しつけーよ!!」
そして結果。
(中条さん、ありがとっ)
小さな兎は見事にシュークリームを手に入れた。
「…………大概甘いな 俺も…」
優希の満面の笑顔を見て、思わず中条は自分自身に苦笑する。
結局 うるうると腰の辺りから見上げてくる幼い視線に負けて、「黙ってろよ?」と口止めして買ってしまったのだ。
公園のベンチに二人並んで座り、片方は煙草、片方はシュークリーム。
いつもなら紅い彼にNOと言われている物を 二人でこっそり楽しむ。
そんな時間は案外気分が良いものだ。
「早く食っちまえよ。怪しまれっからな」
ペリッと包装を破いて、優希へ渡す。
受け取った優希は中条の唇を読んで うん!と張り切って頷く。
風向きに気を配り 煙草を吹かした。
半日ぶりの煙は肺に沁みて、何とも言えない満足感があった。
ストイックに禁煙をしているわけではないが、あの家に居る時は吹かさないようにしている。
一度、美柴の留守を狙って優希の前でズカズカと一箱吸ったら、見事に告げ口された経験も影響しているが…。
だったら自分の家で原稿を上げればいいと思うだろう。
確かに 原稿の内容や資料が とてもじゃないが教育上宜しくないものであったり、あまり美柴には見せたくないような裏関係のものだった場合、自宅で上げている。
しかしそれ以外の題材であった場合は 持ち込んで行く。
身近に客観的な意見を聞くこともできるし、何しろ先刻のようなささやかな気遣いを受けるのが たまらなかったりする。
「………丸くなったもんだ」
なんだか妙に年を取ったような気がする。でも、
(中条さんも食べる?)
それを負い目には感じない。
「お前のもんだ。全部食っちまえ」
荒れた過去があるからこその、この未来だ。
きっと美柴も そう感じて新しい家族を愛している。
(中条さんに一個だけ、秘密教えてあげる)
一本を吸い終えて 背もたれに背を預ける。
吹き上がる噴水を見ていると、視線の脇で優希の手話が見えた。
なんだと見やると そっと笑う子供。
(シュークリームのお礼。僕が知ってる秘密教えてあげる。)
「あ?なんだそりゃ」
もったいぶって クスクス笑う優希は じっと上目に中条を見つめた。
(トキは中条さんの事、好きなんだよ。だけど ないしょにしてるんだ)
とんでもないサインだった。
思わず眉を寄せて 首を傾げる。
「………んな事、なんで分かる?」
(分かるよ。見てたらちゃんと分かる。トキは中条さんが大好きだよ)
繰り返される『好き』という台詞が厭に痒くて、思い知る。
……俺たちは互いに「好き」という言葉を言った事は一度もない。
けれど優希には、それが感じられるのだ。身近な存在だからこその、感性。
「……美柴の事、よく知ってんだな」
なんと応えれば良いのか分からず、そんなありきたりな返事を返した。
すると優希は こちらの引っ掛かりを知ってか知らずか えへんと胸を張って笑う。
(知ってるよ!中条さんよりいっぱい知ってるっ負けないんだから!)
そのサインに 想う。
「………俺が美柴といるのは嫌か?」
たった二人だけの小さな家族。
美柴と優希は、お互いが失ったものを補い合うように ひっそりと穏やかに暮らしている。
その生活に少しずつ入り込んでいる大人を、どう感じているのだろう。
取られてしまうと、感じるのだろうか…
(………………。)
唇を読んだ優希は一変、肩身狭そうに怖ず怖ずと中条を見上げた。
小さな指先はそっとサインを繋ぐ。
(……僕はそんなつもりで、言ったんじゃないよ…?)
「…………。」
一拍、不覚にもぽかんと優希を見てしまった。
こんな子供が 自分と美柴に気を遣っている。
(中条さんは、トキからいなくなったりしないで…)
「……………。」
………その言葉の真意を、なんとなく悟る。
『子は鎹』とはよく言ったものだ。
泣き出しそうな瞳に、ははと軽い笑いを溢した。
「心配すんな、別に誰も居なくなったりしねーから」
ぐしゃぐしゃと幼い頭を強く撫でる。
嘘の無い中条の言葉に、ようやくぱぁと華やいだ優希はその手の平に甘えて、笑った。
「よし。じゃ俺も一つ、美柴の秘密を話してやる」
(…?)
目線を合わせ、ゆっくりと言葉が伝わるように言う。
「美柴はお前のことが、世界で1番大切だ」
読んだ優希は 驚いて 目を瞬かせる。
「俺よりも、自分よりも、……お前の幸せを願ってる」
見てれば分かる。
この存在をどれだけ大切に想っているか。その笑顔でどれだけ救われているか。
何ものにも変えがたい、宝物だ。
人差し指をそっと優希の唇に乗せた。
「秘密だぞ」
照れくさげに俯いて はにかんだ優希は、真似をして中条の唇に人差し指を伸ばす。
(ひみつだね!)
そう穏やかな笑顔を交わして、さてとベンチから立ち上がる。
頬に食べ終わったシュークリームの痕跡が無い事を確認して、優希のマフラーを軽くなおした。
「帰るか」
(うん!)
手を伸ばすと 小さな暖かい手が掴み返してくる。
「帰ったら手ェ洗わねーとな。あいつ昔っから犬みてーに鼻が利くからな、甘い匂いでバレるかもしんねーぞ」
(トキが犬。)
「……………お前、それ絶対美柴に言うなよ。秘密だ秘密」
(…どうしようかなぁ)
「……明日チョコレート買ってきてやる」
(ひみつです!)
愛しさが刻み込まれるような気がした。
■君の未来 幸せがずっと続くように… (slow/清春)
優希くんは中条さんとアキラ君から見ると 良い性格してるという設定。笑
というか、美柴さんのママっぷりが…!笑
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