愛猫やらお人形やら美柴双子やら…
■未来捏造シリーズ。初めての…?
踏み込んだ中条さんと 自分に素直になりつつある美柴さん。
そして優希くんのナイスアシスト。笑
中条が初めて美柴宅に訪れたのは、再会してから2ヶ月ほど経ってからだった。
美柴と中条は時間が合えば 優希を連れて 様々なところへ出掛けていた。
学生の頃から将棋教室に出入りしていた中条は、子供の扱いが苦手ではなく 優希も徐々に懐いていった。
人見知りで臆病な優希を遠出させる事がなかなか出来ずにいた美柴は、多少強引でも優希を連れ出して 外の世界を見せてくれる中条の存在を 正直有り難いと思っていた。
(お家に遊びに来て!)
優希には、中条に見せたいものがたくさんあった。
美柴と二人で選んで買っているシンプルで愛らしい食器。
初めて美柴に買ってもらったカメラ。
学校で作った工作や アルバム。
優希は一生懸命 画用紙にたくさんの字を書いて、中条に見せていた。
中条も 一つ一つをきちんと褒めるのだ。そんな様子に 意外だと感心してしまう。
しかし夜になると優希が(トキのオムライスが世界で一番おいしい)なんて言い出すものだから、夕飯は美柴が作ることになった。
「お前の手料理なんて初めてだな?」
からかうような声を意地でも無視して 作ったオムライス。
普通に「美味い」と言われ、美柴は言葉に困る。
そんな戸惑う美柴を 優希は不思議そうに首を傾げて見ていた。
そうして 夜まで はしゃいでいた優希はいつの間にか、リビングでくったりと眠ってしまった。
美柴はそっと抱えあげて 優希を子供部屋に運ぶ。
ベッドに降ろすと 優希は起きてしまった。
寝れるようにしばらく傍にいると、幼い指先が ふいに手話を作った。
(ねぇトキ。中条さんの事、好きでしょう?)
「…………………」
当たり前のような顔でそんなサインを見せた優希に驚いて、何も言えなかった。
すると優希は急に笑って 胸に思い切り抱きついてくる。その小さな身体を受け止めて、複雑な溜息を吐いた。
(中条さんも、きっとトキのこと、好きだよ)
子供の言葉は、時に侮れない。
初めてそう思い知った。
なんとか寝かしつけて リビングに戻ると、中条がソファーに腰を落ち着けて ビールを口にしていた。
どうやら室内禁煙は甘受しているらしい。あのヘビースモーカーが今日は見る限り、一本も吸っていない。
「寝たか?」
「あぁ」
自分も冷蔵庫から飲料を酌むと、中条の隣に空いたスペースに座った。
「なぁ。お前、金、使わなかったのか」
座った美柴を横目に、中条はそう切り出した。
本当は 優希を引き取ったと聞いたときに真っ先に浮かんだのがこの疑問だった。
子供一人、しかも聴覚の無い子供をこの都会で一人で育てていくには、色々と金も要り様だろうと容易に想像がつく。
しかもこうして 初めて二人が住んでいる家に来てみれば、子供部屋も寝室も用意のある 値が張りそうなマンション。
20代後半の男が子供連れで借りるには 程遠い物件だ。
おそらく美柴は ビズゲームで得た1億5千万を 優希との生活にあてている。
唐突な中条の質問に、美柴はひくりと肩を強張らせ 視線を落とした。
静かな声で応える。嘘をつくことはしなかった。
「……使えなかった」
『使わなかった』のではなく、『使えなかった』。それはつまり……
「……そうか」
中条は 美柴があのゲームに賭けていた願いを、縋っていた存在を、知っている。
だから、それ以上は 聞かなかった。
「…中条さんは…」
言いかけて 口を紡ぐ。美柴も、中条の”理由”を知っている。
言いよどんだ美柴を軽く笑い、ビールを煽った。
「ま、出来る限りの事はしたけどな。償いなんて、金でどーにかなるもんじゃあねぇーからな」
「………そう」
吹っ切ったような中条の声色に 美柴は曖昧に相槌を打つ。なんと言えばいいのか、分からなかった。
「結局のところ、俺達は何の為にあんな事してたんだかな」
終わってみれば とんだ笑い話だ。命を懸けて得た金は 当初各々が掲げていた願いからは、かけ離れていったのだ。
実感するのは、自分は生きているということだけ。
誰も救えなかったし
誰も元通りにはなれなかった。
「………でも、後悔はしてない」
美柴は 静かに、けれど芯の通った声でそう断言した。
あの頃 少しでも踏み込めば強張っていたあの表情は、もう無い。
背負っていた十字架は、きっと今 慈しむ想いに変わっているのだ。
「………………」
守る存在がいるということは こんなにも人を変えるのかと、中条はじっとその横顔を見ていた。
「……何だ」
「いや、別に」
訝しがる美柴に首を振り、改めてリビングを見渡す。
目に留まるものはどれも整理整頓されていて、揃えられた家具も 美柴らしい。
けれど、窓際には子供の遊ぶスペース。
シンプルなカラーボックスにはトイカメラや画用紙やレゴ。
壁際の背の低い本棚には 子供向けの著書や画集。
寝転がったら肌触りの良さそうなタオルケット。
子供一人なら余裕で包み込んでしまいそうなビーズクッション。
優希のためにと揃えられた すべての空間。
「しっかし まさかお前が一児のパパとはな。意外すぎる」
「……それ何回言うつもりだ」
「あの可愛かった美柴がねぇ」
「………………」
わざと強調して言えば、美柴は むっと不機嫌そうに睨みつけてきた。
生活環境が変わっても、根本的な部分は案外変わってなかったりするのだ。
そして同じく変わっていない中条も、ニヤリと笑む。
「見た目、今も変わらねぇーけどな?」
「!」
途端 美柴は警戒し、中条の隣から逃げようとした。
中条がそうやって笑んだあと どんな行動に出るのか、美柴はよく知っている。
「遅いな」
しかし気が付けば 背中はソファーに沈み込んで、上には影が覆いかぶさる。
咄嗟に腕を上げて 中条を押し返す。でも…この状況で勝てたことがなかったことは、美柴も充分 覚えている。
「お前、身体鈍ったんじゃねーか。昔より弱ぇーぞ」
「…うるさい」
反論する唇は、塞がれる。
舌が絡まる感触に思わず ふ、と吐息がこぼれてしまった。
変わらない、煙草の匂いと重なる身体の重み。
「……駄目だ 優希が起きる」
「んわけねぇーだろーが。今寝たんだろ」
一番効果があると思われた言葉も、さらりと流された。
手の早さもあの頃と変わらず、シャツを完全に肌蹴させられる。
肌に直に触れる 手の平の体温。
「………仕事、あるんだろ」
「俺はいつでも出来る仕事だ。そーゆうお前は?」
「………………休み…だ」
正直に答えて 後悔した。
案の定 胸元に舌を這わせていた中条は はてと顔を上げ、意味深な相槌をした。
「丁度いいじゃねぇーか。何だ、こーゆー事してもいいように次の日休みの時に誘われたのか?」
「…ッ 違、う」
肌を滑る予測できない指先の動きに 思わず言葉が上ずった。
中条を家に招きたいと言い出したのは優希であって、決して自分が望んで招いたわけではない。
断じて、こんな展開は期待していない。
首筋に這うキスも 胸元で柔い尖りを弄ぶ指も ベルトを外される音も、期待していない。
「…お前、女とか居ねぇーだろーな。もう修羅場は懲り懲りだぞ」
「修羅場だったのはアンタだけだろ」
「うるせぇー。…で、どうなんだよ」
「…………居な、い」
「ずっとか?」
「……………」
期待なんかしていない、はずだった。
「あれからずっと、か?」
応えない美柴に、中条は声を落とし 下肢に触れた手を止めた。
顔を隠そうとする美柴の両腕を捕らえ、じっと見つめる。
「………………」
「…美柴」
答えを真剣に待つ中条の視線に負けて、美柴は溜息を吐く。
目を閉じて、一度だけ小さく頷いた。
(こんな未来が待ってるなんて、思わなかったから)
不覚にも泣きそうになった自分に気が付いて 瞼をぎゅうと強く閉じた。
(どう考えればいいのか分からない)
暗闇の中、一層いやらしく動くはずの中条の手が 何故かそっと美柴の前髪を掻きあげる。
美柴はその手の感触も 覚えていた。だから、強張る身体の力がすっと抜けた。
額に くちづけが降る。
触れるだけのそれは徐々に鼻頭 唇 喉元と落ちていく。
そうして 囁かれた言葉に、胸が苦しくなった。
「…寂しかったか?」
強く瞼を閉じる美柴に、中条は何度もあやすようなキスをする。
ようやくゆっくりと開いた瞳は どこか悔しそうだった。
「……そんな事、聞くな」
強がりなのは あの頃と変わらない。
けれど、その表情からは 驚くほど素直な感情が見て取れた。
求められていたと思うと堪らなくて、思わず 口元が笑んでしまう。
笑われたと知った美柴は 唇を噛んで そっぽを向く。
そんなところを見ると、もっと求められたい。そんな欲に駆られる。
組み敷いた身体を抱きしめて、深いキスをした。
腕の中の相手は まだ少し慣れない様子で、合間に吐息を飲む。
弱いところに軽く触れただけで、美柴の身体は敏感に反応して 震える。
「…てことはお前、人に触られんの軽く3年ぶりってことじゃねーか」
「ッ……うるさ、い…あッ」
露わになった熱い軸は 与えられる快感を期待していた。その期待を何度も焦らすと 苦しそうに喘ぐ。
すぐにでも掻き抱いてしまいたい。でも堪える。ゆっくり、時間をかけたかった。
「…ッま、」
「ん?」
喘ぎの途切れ途切れに何か言おうとするから、一度快感から解放した。
肩を上下させて息を飲み ちらりと見上げてくる。言いにくそうに 微かに泳ぐ視線。
「………そっち、は」
「あ?」
「…そっちは……」
「………あー…」
言葉に迷う美柴に、意図を悟った。はっ、と笑ってやった。
「フリーライターってのは案外男臭い仕事なんだよ。一つの場所に留まらねーからな。そう考えると、学生やってた頃の方が選び放題だったな。今は勝手気ままな独り身だ。軽くていいけどな」
「…………………」
熱い身体を横たえたまま、美柴はじっと目の前の中条を見上げていた。
なんとなく中条が一瞬、自虐的に笑ったように思えた。
美柴が聞きたかったのは セックスの相手とか、気まぐれな仕事の話じゃない。…………帰る場所が、あるのかどうか…
「でもまぁ…」
「…?」
美柴がどう聞けばいいのかと迷っているうちに、中条は思わせぶりな言葉を口にする。
「落ち着いてもいいか なんて、思ったりするかもな」
一拍 静かな視線が、交差した。
「………思えばいい。」
そっと美柴の腕が上がり、指先が中条の頬に触れた。
思えば、そんな風に手を伸ばすのは 初めてだったかもしれない。
首を伸ばして 頬に手を添えると、もう片方の頬にキスをする。
不思議と躊躇も緊張もなく、ごく自然と 身体が動いていた。
「…………………」
驚いた中条は眉を上げて固まった。
深い眼差しで見上げる美柴に、負けた と笑みを溢した。
ぐい といきなり美柴の身体を引き上げ、後頭部を逃げないよう支える。
「…ッ、んんッ」
戸惑いの無い激しいくちづけの後。
「まったく…。お前だけだよ、俺を口説き落とせるのは」
そう言って笑った表情は、あの頃から一度も見た事のない 穏やかな笑い方だった。
■いくつもの夜の果てに 今がある (嵐 素晴らしき世界)
こうして、晴れて夫婦になりました。笑
踏み込んだ中条さんと 自分に素直になりつつある美柴さん。
そして優希くんのナイスアシスト。笑
中条が初めて美柴宅に訪れたのは、再会してから2ヶ月ほど経ってからだった。
美柴と中条は時間が合えば 優希を連れて 様々なところへ出掛けていた。
学生の頃から将棋教室に出入りしていた中条は、子供の扱いが苦手ではなく 優希も徐々に懐いていった。
人見知りで臆病な優希を遠出させる事がなかなか出来ずにいた美柴は、多少強引でも優希を連れ出して 外の世界を見せてくれる中条の存在を 正直有り難いと思っていた。
(お家に遊びに来て!)
優希には、中条に見せたいものがたくさんあった。
美柴と二人で選んで買っているシンプルで愛らしい食器。
初めて美柴に買ってもらったカメラ。
学校で作った工作や アルバム。
優希は一生懸命 画用紙にたくさんの字を書いて、中条に見せていた。
中条も 一つ一つをきちんと褒めるのだ。そんな様子に 意外だと感心してしまう。
しかし夜になると優希が(トキのオムライスが世界で一番おいしい)なんて言い出すものだから、夕飯は美柴が作ることになった。
「お前の手料理なんて初めてだな?」
からかうような声を意地でも無視して 作ったオムライス。
普通に「美味い」と言われ、美柴は言葉に困る。
そんな戸惑う美柴を 優希は不思議そうに首を傾げて見ていた。
そうして 夜まで はしゃいでいた優希はいつの間にか、リビングでくったりと眠ってしまった。
美柴はそっと抱えあげて 優希を子供部屋に運ぶ。
ベッドに降ろすと 優希は起きてしまった。
寝れるようにしばらく傍にいると、幼い指先が ふいに手話を作った。
(ねぇトキ。中条さんの事、好きでしょう?)
「…………………」
当たり前のような顔でそんなサインを見せた優希に驚いて、何も言えなかった。
すると優希は急に笑って 胸に思い切り抱きついてくる。その小さな身体を受け止めて、複雑な溜息を吐いた。
(中条さんも、きっとトキのこと、好きだよ)
子供の言葉は、時に侮れない。
初めてそう思い知った。
なんとか寝かしつけて リビングに戻ると、中条がソファーに腰を落ち着けて ビールを口にしていた。
どうやら室内禁煙は甘受しているらしい。あのヘビースモーカーが今日は見る限り、一本も吸っていない。
「寝たか?」
「あぁ」
自分も冷蔵庫から飲料を酌むと、中条の隣に空いたスペースに座った。
「なぁ。お前、金、使わなかったのか」
座った美柴を横目に、中条はそう切り出した。
本当は 優希を引き取ったと聞いたときに真っ先に浮かんだのがこの疑問だった。
子供一人、しかも聴覚の無い子供をこの都会で一人で育てていくには、色々と金も要り様だろうと容易に想像がつく。
しかもこうして 初めて二人が住んでいる家に来てみれば、子供部屋も寝室も用意のある 値が張りそうなマンション。
20代後半の男が子供連れで借りるには 程遠い物件だ。
おそらく美柴は ビズゲームで得た1億5千万を 優希との生活にあてている。
唐突な中条の質問に、美柴はひくりと肩を強張らせ 視線を落とした。
静かな声で応える。嘘をつくことはしなかった。
「……使えなかった」
『使わなかった』のではなく、『使えなかった』。それはつまり……
「……そうか」
中条は 美柴があのゲームに賭けていた願いを、縋っていた存在を、知っている。
だから、それ以上は 聞かなかった。
「…中条さんは…」
言いかけて 口を紡ぐ。美柴も、中条の”理由”を知っている。
言いよどんだ美柴を軽く笑い、ビールを煽った。
「ま、出来る限りの事はしたけどな。償いなんて、金でどーにかなるもんじゃあねぇーからな」
「………そう」
吹っ切ったような中条の声色に 美柴は曖昧に相槌を打つ。なんと言えばいいのか、分からなかった。
「結局のところ、俺達は何の為にあんな事してたんだかな」
終わってみれば とんだ笑い話だ。命を懸けて得た金は 当初各々が掲げていた願いからは、かけ離れていったのだ。
実感するのは、自分は生きているということだけ。
誰も救えなかったし
誰も元通りにはなれなかった。
「………でも、後悔はしてない」
美柴は 静かに、けれど芯の通った声でそう断言した。
あの頃 少しでも踏み込めば強張っていたあの表情は、もう無い。
背負っていた十字架は、きっと今 慈しむ想いに変わっているのだ。
「………………」
守る存在がいるということは こんなにも人を変えるのかと、中条はじっとその横顔を見ていた。
「……何だ」
「いや、別に」
訝しがる美柴に首を振り、改めてリビングを見渡す。
目に留まるものはどれも整理整頓されていて、揃えられた家具も 美柴らしい。
けれど、窓際には子供の遊ぶスペース。
シンプルなカラーボックスにはトイカメラや画用紙やレゴ。
壁際の背の低い本棚には 子供向けの著書や画集。
寝転がったら肌触りの良さそうなタオルケット。
子供一人なら余裕で包み込んでしまいそうなビーズクッション。
優希のためにと揃えられた すべての空間。
「しっかし まさかお前が一児のパパとはな。意外すぎる」
「……それ何回言うつもりだ」
「あの可愛かった美柴がねぇ」
「………………」
わざと強調して言えば、美柴は むっと不機嫌そうに睨みつけてきた。
生活環境が変わっても、根本的な部分は案外変わってなかったりするのだ。
そして同じく変わっていない中条も、ニヤリと笑む。
「見た目、今も変わらねぇーけどな?」
「!」
途端 美柴は警戒し、中条の隣から逃げようとした。
中条がそうやって笑んだあと どんな行動に出るのか、美柴はよく知っている。
「遅いな」
しかし気が付けば 背中はソファーに沈み込んで、上には影が覆いかぶさる。
咄嗟に腕を上げて 中条を押し返す。でも…この状況で勝てたことがなかったことは、美柴も充分 覚えている。
「お前、身体鈍ったんじゃねーか。昔より弱ぇーぞ」
「…うるさい」
反論する唇は、塞がれる。
舌が絡まる感触に思わず ふ、と吐息がこぼれてしまった。
変わらない、煙草の匂いと重なる身体の重み。
「……駄目だ 優希が起きる」
「んわけねぇーだろーが。今寝たんだろ」
一番効果があると思われた言葉も、さらりと流された。
手の早さもあの頃と変わらず、シャツを完全に肌蹴させられる。
肌に直に触れる 手の平の体温。
「………仕事、あるんだろ」
「俺はいつでも出来る仕事だ。そーゆうお前は?」
「………………休み…だ」
正直に答えて 後悔した。
案の定 胸元に舌を這わせていた中条は はてと顔を上げ、意味深な相槌をした。
「丁度いいじゃねぇーか。何だ、こーゆー事してもいいように次の日休みの時に誘われたのか?」
「…ッ 違、う」
肌を滑る予測できない指先の動きに 思わず言葉が上ずった。
中条を家に招きたいと言い出したのは優希であって、決して自分が望んで招いたわけではない。
断じて、こんな展開は期待していない。
首筋に這うキスも 胸元で柔い尖りを弄ぶ指も ベルトを外される音も、期待していない。
「…お前、女とか居ねぇーだろーな。もう修羅場は懲り懲りだぞ」
「修羅場だったのはアンタだけだろ」
「うるせぇー。…で、どうなんだよ」
「…………居な、い」
「ずっとか?」
「……………」
期待なんかしていない、はずだった。
「あれからずっと、か?」
応えない美柴に、中条は声を落とし 下肢に触れた手を止めた。
顔を隠そうとする美柴の両腕を捕らえ、じっと見つめる。
「………………」
「…美柴」
答えを真剣に待つ中条の視線に負けて、美柴は溜息を吐く。
目を閉じて、一度だけ小さく頷いた。
(こんな未来が待ってるなんて、思わなかったから)
不覚にも泣きそうになった自分に気が付いて 瞼をぎゅうと強く閉じた。
(どう考えればいいのか分からない)
暗闇の中、一層いやらしく動くはずの中条の手が 何故かそっと美柴の前髪を掻きあげる。
美柴はその手の感触も 覚えていた。だから、強張る身体の力がすっと抜けた。
額に くちづけが降る。
触れるだけのそれは徐々に鼻頭 唇 喉元と落ちていく。
そうして 囁かれた言葉に、胸が苦しくなった。
「…寂しかったか?」
強く瞼を閉じる美柴に、中条は何度もあやすようなキスをする。
ようやくゆっくりと開いた瞳は どこか悔しそうだった。
「……そんな事、聞くな」
強がりなのは あの頃と変わらない。
けれど、その表情からは 驚くほど素直な感情が見て取れた。
求められていたと思うと堪らなくて、思わず 口元が笑んでしまう。
笑われたと知った美柴は 唇を噛んで そっぽを向く。
そんなところを見ると、もっと求められたい。そんな欲に駆られる。
組み敷いた身体を抱きしめて、深いキスをした。
腕の中の相手は まだ少し慣れない様子で、合間に吐息を飲む。
弱いところに軽く触れただけで、美柴の身体は敏感に反応して 震える。
「…てことはお前、人に触られんの軽く3年ぶりってことじゃねーか」
「ッ……うるさ、い…あッ」
露わになった熱い軸は 与えられる快感を期待していた。その期待を何度も焦らすと 苦しそうに喘ぐ。
すぐにでも掻き抱いてしまいたい。でも堪える。ゆっくり、時間をかけたかった。
「…ッま、」
「ん?」
喘ぎの途切れ途切れに何か言おうとするから、一度快感から解放した。
肩を上下させて息を飲み ちらりと見上げてくる。言いにくそうに 微かに泳ぐ視線。
「………そっち、は」
「あ?」
「…そっちは……」
「………あー…」
言葉に迷う美柴に、意図を悟った。はっ、と笑ってやった。
「フリーライターってのは案外男臭い仕事なんだよ。一つの場所に留まらねーからな。そう考えると、学生やってた頃の方が選び放題だったな。今は勝手気ままな独り身だ。軽くていいけどな」
「…………………」
熱い身体を横たえたまま、美柴はじっと目の前の中条を見上げていた。
なんとなく中条が一瞬、自虐的に笑ったように思えた。
美柴が聞きたかったのは セックスの相手とか、気まぐれな仕事の話じゃない。…………帰る場所が、あるのかどうか…
「でもまぁ…」
「…?」
美柴がどう聞けばいいのかと迷っているうちに、中条は思わせぶりな言葉を口にする。
「落ち着いてもいいか なんて、思ったりするかもな」
一拍 静かな視線が、交差した。
「………思えばいい。」
そっと美柴の腕が上がり、指先が中条の頬に触れた。
思えば、そんな風に手を伸ばすのは 初めてだったかもしれない。
首を伸ばして 頬に手を添えると、もう片方の頬にキスをする。
不思議と躊躇も緊張もなく、ごく自然と 身体が動いていた。
「…………………」
驚いた中条は眉を上げて固まった。
深い眼差しで見上げる美柴に、負けた と笑みを溢した。
ぐい といきなり美柴の身体を引き上げ、後頭部を逃げないよう支える。
「…ッ、んんッ」
戸惑いの無い激しいくちづけの後。
「まったく…。お前だけだよ、俺を口説き落とせるのは」
そう言って笑った表情は、あの頃から一度も見た事のない 穏やかな笑い方だった。
■いくつもの夜の果てに 今がある (嵐 素晴らしき世界)
こうして、晴れて夫婦になりました。笑
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