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愛猫やらお人形やら美柴双子やら…
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僕はネコである。名前は……たくさんある。
お昼時 公園で寝ているおじさん達には『ノラ』と呼ばれ、
夕方 追いかけてくる子供達には『にゃんこ』と呼ばれ、
そして夜には煌びやかなお姉さん達に、『クロ』と呼ばれる。

僕は自由気ままなノラ猫だ。縄張りは少し狭くて薄汚いけれど 僕はこの小さな世界の中に たくさんの居所を持っている。
今日はその中でもこの肉球三本に入る とっておきの秘密の場所をご案内。

真っ暗な夜。僕達 ノラは闇に紛れて忍び足。
不自然すぎるほど眩しい街道を尻目に、細くてゴミ袋だらけの暗い路地を進んでいく。
乱雑に並んだポリバケツ。いつもなら上に乗って 生ゴミの中を探るけれど、この時間ならそんなことをする必要は全然無い。
そう、これから向かうのは いつも僕にエサをくれる場所。
そこでたんとご馳走を頂けるのだから、わざわざ不必要に毛並みを汚すなんて、僕はまっぴらごめんなのだ。

漆黒の毛並みを持つ細い猫は体をくねらせ ポリバケツの間を縫うように抜けていく。


見えてくる脆い階段。軽やかに駆け上って 辿り着くのは とあるお店の裏口だ。
僕はそのドアの前に 姿勢良くちょこんと座る。閉められているドアを見上げ、ナォ…と控えめに一鳴きした。

(…………あれれ。)
開かないドア。今日はお兄さんは居ないのかな。

「…ナォ…?」
もう一度、今度は少し大きな声で。

…ガチャリ。
ドアが開いて、そぅと顔を覗かせた人影。
黒い靴、黒いズボン、白いシャツに小さな蝶ネクタイ。
じっくり眠った赤ワインのような髪。
この人が、僕にエサをくれる いつものお兄さんだ。

「ナォ」
小さく、ご挨拶。無意識に パタパタと尻尾が揺れる。
外に出て しゃがみ込むお兄さんの膝に、コツンコツンと何度も額を寄せて甘える。
今日のお兄さんは 食べかけのおにぎりをくわえながら、サンドイッチを一つ持っていた。
僕を一撫でしたお兄さんは サンドイッチを小さく千切る。
ガシャガシャというビニールの音や 香ってくるハムの匂いに、思わず歓喜して ニャア!と鳴き声をあげる。

「…しー」
人差し指を口に当てる仕草。
…えっと…この人間の仕草の意味は…うるさくしてはいけない、だったかな。

「…ナォ…」
ごめんなさい…。大人しく、お兄さんが置いてくれたサンドイッチを食べる。人間の食べ物って、本当に美味しい。

はぐはぐ と食べている間、お兄さんは僕の頭をずっと撫でている。
色んな人にこうされるけれど、このお兄さんの手は 僕は嫌いじゃない。
煙草臭くないし 強引じゃないし、何よりさらさらと心地良いのだ。
それに……この手は、心が寂しい人の手の感触だ…。
きっと、僕と同じ、独りぼっちなんだろうと思う。

しばらく 久しぶりのハムと野菜に舌鼓を打っていたけれど、不意に香った香りに意識が覚醒した。

(…ん!この匂いは!)
この匂いは知っている。僕ら猫が一番好きな食べ物の匂いだ。
まだ残っているご馳走から顔を上げて、僕はお兄さんの顔を見上げた。
本能的に 鼻がヒクヒクと匂いの元を辿り始める。
気がつけば、僕は 目の前でしゃがんでいるお兄さんの膝に前足を掛けて その手にある おにぎり に顔を伸ばしていた。

「………」
乗り出した僕に驚いたお兄さんが、少し おにぎりを上に上げる。
つられて 僕の手は ちょいちょい とそれを取ろうとしてしまう。強請るように お兄さんに向かって鳴いた。

(欲しい!その匂いがするモノが欲しい!)
お兄さんは困った様子で 何度か また人差し指を口に当てていた。
それでも僕は ナオ!ナオ!と根気良く 鳴いた。
「…………。」
お兄さんの視線が、僕と 手にあるおにぎりを行き来する。

「…………。」
短いため息。しょうがない…というような表情に 少し申し訳ないような気もする。
だけど、すい と僕の前に差し出された 一欠けらの お米とピンクの具材。

(鮭だッ!)

魚なんて、フレークだとしても食べられるのは一ヶ月に一度あればいいほう。
嬉しくて 嬉しくて、僕は なごなご と鳴きながらそのカケラをペロッと平らげた。

「ナォ」
ありがとう。きちんとお礼を言って、尻尾を振った。
「…………。」
クリクリと丸い目で見上げる僕に きょとん としたお兄さんは 次の一瞬、ほんの少しだけ笑った。

お兄さんの笑った顔は、初めて見たように思う。
なんとなく その笑顔は慣れていなくて ぎこちない、苦笑いのようだったけれど、とても綺麗だった。
親愛の意を込めて お兄さんの手の平に鼻先を寄せる。よしよしと撫でられ、素直に嬉しかった。

(また来るからね、また優しくしてね。)

立ち上がって 帰ろうとするお兄さんに、僕はそう鳴いた。
お兄さんは もう一度だけ小さく笑って、僕に手を振った。
閉じられるドアに、僕も小さく尻尾を振った。


黒い猫は しん…と静まり返る路地裏で、満足気に毛づくろいを始める。


僕はネコである。名前は……無くても構わない。
月が照らすこの世界で、お兄さんは僕の名前を呼ばないから…。



■『AAA』ノーネーム。

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